DES方式と清算方式で課税関係は大きく異なる可能性があるので注意しましょう
税務通信3428号の「実例から学ぶ税務の核心<第1回>」で、本年5月に東京地裁で判決が下されたDES課税リスク説明義務違反事件が取り上げられていました。
この事案では、顧問税理士が会社の代表者が会社に対して有していた約11億円の貸付金について、相続税対策としてDES(デット・エクイティ・スワップ)を提案したところ、債務消滅益課税が生じ、約2億9000万円の法人税等の納付が必要となったことについて、顧問税理士の説明義務違反を認定し、顧問税理士に約3億2900万円の損害賠償が命じられています。
事件の細かな内容はおいておくとして、会社の実務担当者としては、DES方式と清算方式(法的整理によるDES)では税務上の取扱いが異なるという点を理解しておくことが重要だと考えられます。
平成18年税制改正により、DESを実行した場合、現物出資する債権の時価がその券面額を下回る場合には、債務者側において債権の券面額と時価との差額を債務消滅益として認識する必要があるとされています。
債権の時価がいくらとなるのかも問題となりますが、DESは業績が芳しくなく債務超過となっているような会社で実行されることが通常ですので、普通に考えると債権の時価は額面を下回ると推測できます。
するとこの差額に対して債務消滅益が生じるわけです。そして、このような会社の場合、BS上の欠損額が大きかったとしても、過去に積み上がってきた欠損であれば、税務上、欠損金の多くの部分が期限切れとなっていて使用できない可能性があり、多額の債務消滅益が発生すると、結果として税負担が生じるという状況が生じる可能性があります。
実際、上記で取り上げられていた事案では、約9億6700万円の債務超過状態に対して、期限切れとなっている欠損金が約9億8300万円あったとされています。
一方、清算方式の場合には、残余財産がないと見込まれる場合には、期限切れ欠損金の損金算入が認められることとされているので、期限切れ欠損金を債務消滅益に当てることが可能となります。上記の事案において、裁判所は、清算方式が採用されていた場合、期限切れ欠損金の控除規定を使用することにより、原告会社の所得金額は0円となると指摘したとのことです。
なお、法人税法基本通達12-3-8では以下のように述べられています。
(残余財産がないと見込まれることの意義)
12-3-8 解散した法人が当該事業年度終了の時において債務超過の状態にあるときは、法第59条第3項《解散した場合の期限切れ欠損金額の損金算入》に規定する「残余財産がないと見込まれるとき」に該当するのであるから留意する。(平22年課法2-1「二十六」により追加)
したがって、清算方式を採用するとしても、債務超過の状態が解消してしまうと話がまたややこしくなる可能性があるので、この点にも留意する必要があると考えられます。
方式一つで大きく結果が異なる税金って、やっぱり怖いと感じる一例でした。