電通へ労働局調査報道も株価へは影響なしが現実か?
昨日、電通に東京労働局の強制捜査が入ったというニュースが流れました。毎日新聞の記事によると「臨検後、電通の労使協定が認めていない月70時間超の時間外労働など具体的な法令違反を確認した上で是正を勧告(行政指導)する方針」とのことです。
電通株価への影響
今回の過労死認定報道を受け、電通の体質に対する批判的な記事等をよく見かけますが、果たして電通の株価はどんな感じで推移しているのだろうかと、2015年期首時点を100として日経平均の推移と比較してみると、以下のようになっています。
上記からすると、ほとんど影響ないといえそうです。
投資家は今回の件は、業績という側面に大きな影響はないと判断しているということではないかと推測されます。あるいは、影響があるとしても、過労死事件の労働判例としてよく引用される電通なので、もともとこのような事態が株価に織り込み済であるという可能性もなくはありません。
電通の業績
電通の2015年12月期の有価証券報告書を確認してみたところ、電通の業績(連結:IFRS)は以下のようになっていました。
業績面からすると、過去3年の営業利益はいずれも1000億円超というすごい会社です。
電通の平均給与はホワイトカラー・エグゼンプションの基準以上
上記の有価証券報告書の「従業員の状況」を確認すると、電通単体(提出会社)の平均給与額等は以下のとおり記載されています。
あくまで平均値ではありますが、平均給与は1200万円を超えています。平均給与が高い会社としてはGCAサヴィアンが有名ですが、こちらは従業員数が110名で2153万円ですから、個人的には7200人を超えるレベルで平均1200万円を超えているほうがすごさを感じます。
昨今、導入が議論されているホワイトカラー・エグゼンプションについて年収基準として示されているのは1075万円ですから、この基準だけからすると、電通では大部分の方がこの制度の適用対象となり得るということになります。
上記の新聞報道では「電通は社員らに月70時間を超える時間外労働を「勤務状況報告表」に記載しないよう指導していたという」とされていますが、業績と平均給与額からすると残業代云々ではなく、長時間労働隠しに重点が置かれていたように感じます。そうであれば、より悪質です。
とはいえ、今回の調査で是正勧告が下されようが、代表者等が書類送検されようが、良くも悪くも巨大な組織の電通に与える影響はそれほど大きくはないでしょう。
むしろ、政府が締め出しをを図るというようなことがない限り、東京オリンピックに向けて業績的には安定的に推移するのではなかろうかという気がしますので、株価への影響がないのもうなずけます。
労働組合もあったんだ
電通で労働組合が組成されているというのはイメージになかったですが、社歴が長い会社なので、労働組合がある方が自然なのかもしれません。
有価証券報告書では、労働組合の状況について以下のように記載されています。
当社の労働組合は、電通労働組合と称し、全国広告関連労働組合協議会に属し、組合員数3,435人であります。また、一部の連結子会社には、各社労働組合が組織されており、組合員数は計2,754人であります。
提出会社の従業員数が7,261名、連結全体では47,324名なので、組合への加入率は高くはありません。
勤務報告書の時間を調整するように指導するようなことが常態化されていたとすれば、そのような実態が労働組合の耳に入っていなかったのだろうかという点は疑問ですが、少なくとも「労使関係は円滑で特記事項はありません」というのが会社の見解となっています。
電通と過重労働というイメージは今回の件でさらに強固なものになったとは思いますが、様々な批判がなされようとも、電通という会社に大きなダメージがないというのが悲しいかな現実というものなのかもしれません。