マイナス金利をふまえた会計基準の改正予定は?
第349回企業会計基準委員会の審議事項の一つに「マイナス金利に関連する会計上の論点への対応 今度の進め方」というものがありました。
平成28年3月期直前にマイナス金利の場合の退職給付債務の割引率をどうするのかというような点が問題となりましたが、前回は、きちんと検討するには時間が足りないし、たいした影響もないのと推測されるので、ゼロを下限としてもマイナス金利をそのまま用いてもよいというような状態となっていました。
そろそろ平成29年3月期の決算に向けての対応を真面目に検討しなければならない時期になってきたということで再度検討対象にあがってきたというわけですが、米国の大統領選後、直近の長期金利は以下のように推移しています。
(出典:日本相互証券(株)HPより)
直近の状況からすると、後回しにされそうな内容ではありますが、上記の審議事項の資料では退職給付債務についてマイナス金利の影響のシュミレーションが行われていました。
マイナスの国債利回りが△0.1%と△0.3%の場合における、支払見込期間5年、10年、13年で影響額の試算が行われています。その他の基礎数値の前提は、20歳に入社、60歳で定年、毎年300人が入社、給与は月50万円定額となっています。
当然、影響が大きくなるのは割引率△0,3%、支払見込期間13年の場合ですが、この場合の想定従業員数は3836人ですが、割引率を0を下限とした場合の退職給付債務は295.8億円、割引率△0.3%を使用した場合の退職給付債務は307.6億円という試算結果がしめされています。
なお、この場合割引率が0.3%変動した場合の退職給付債務が変動する割合は4.0%とされています。
退職給付債務の金額差は約12億円であるものの、差の割合でいえば4%というレベルに収まっており、割引率の見直しが求められるいわゆる10%基準以下となっています。このため、上記の資料においても「利回りが全般的に相当程度マイナスとならない限り」割引率を見直す必要性は生じないと考えられるとされてます。
なお、支払見込期間が13年の場合、平成26年3月現在の割引率(1.046%)を平成28年3月期に用いている場合には、0.27%の変動で退職給付債務が10%以上変動するという試算結果となっていますが、平成28年3月末の国債利回りが0.176%であったことから平成28年3月期決算において割引率が見直されていると考えられるので、やはり利回りが全般的に相当程度マイナスとならない限り、割引率を見直す必要性は生じない可能性があると考えられるという分析結果が示されています。
社債市場の状況が異なるのかも知れませんが、そもそもIFRSのように優良社債の利回りをベースにするということも考えられるのではないかと思いますが、ASBJの資料では「国債と優良社債との差」という項目で、割引率のベースとして日本基準においても優良社債の利回りを基礎とすることも認められているという点を確認の上で、国債の利回りと比較すると0.2%~0.4%程度の乖離が生じているというデータが示されています(だからどうするという内容は資料には記載されていません)。
今後の対応としては、「公開草案を可能な限り速やかに公表し、平成29年3月までに最終化することを目標として検討を進めることが考えられる」とされています。
なお、退職給付債務の割引率以外に、金利スワップの特例処理、資産除去債務に係る割引率、金融商品の時価等の開示における時価の算定の取扱い等については、実務において解釈上の重要な問題や混乱が生じているという状況にはないため、「これらの論点については特段の対応は不要であると考えられるかどうか」と記載されています。
直近の長期金利の状況からするともはや不要かもしれないという論点ではありますが、米国の大統領選の再集計結果によって、本当に問題が発覚したような場合には、再度脚光を浴びる可能性もゼロではありませんので、とりあえず直近になって困らないように処理方法は明らかにしておいてもらいたいと考えます。