従業員退職時の競合避止合意-代替措置なく3年は公序良俗違反で無効
労政時報3931号の労働判例SELECTで、デジタルパワーステーション(原告)事件(東京地裁平28.12.19判決)が取り上げられていました。
この事件は原告の会社が、同社を退職後、競合他社に雇用された従業員2名に対し、退職時の競業避止合意に基づき、当該他社の使用人として稼働することの差止を求めるとともに、競業避止義務の不履行に基づき損害賠償請求を行ったものです。
これに対し判決は、会社と元従業員の間の競業避止合意が、元従業員の職業選択または営業の自由を不当に侵害するものであり、公序良俗に反し無効であるとして、会社の請求を何れも棄却したとのことです。
この事案における競合避止合意は、退職後3年間にわたって競合企業に雇用されることや顧客との交渉等を広範囲に禁止するものであったとのことで、代替措置の状況によるとはいえ、直感的に3年は長く、憲法で認められている職業選択の自由を不当に害するといわれても仕方がないなと思ったものの、内容を詳しく見ていくと、会社からすればそれはないよなという部分もあると感じました。
この会社は、コンテンツ・プロデュース事業等を営む会社で、事業の一環として、アダルトゲームのパッケージやキャラクターグッズの企画・製造・販売業務を行っているとのことです。一方、従業員が転職した会社は、音楽・映像・グラフィック・ソフトウェア等の制作、パッケージソフトやキャラクターグッズの企画・製造・販売事業等を営んでおり、両社はアダルトゲームのパッケージやキャラクターグッズの企画・製造・販売業務において競合する部分があるとされています。
元従業員2名の入社時の給料は月額25.7万円(後に29.8万円に増額)、月額38万円(後に33万円に減額)であり、この他に業績に応じた賞与が支給されており、退職時は係長と課長であったとされています。
そして両者は退職時に、退職に当たり、退職後の秘密保持や退職後3年間の競業避止義務等について規定する誓約書及び特定のイベントに関する秘密保持について規定する誓約書をを会社に提出しました。
その後、従業員1は平成26年2月20日に退職し、3月1日に競業他社と雇用契約を締結し、従業員2は平成26年3月20日に退職し、4月1日に競業他社と雇用契約を締結したとのことです。会社とすれば、競業避止義務等を規定した誓約書を提出した直後に、競業他社に転職するのはないだろうというところだと思います。
しかしながら裁判所は、退職後3年間という比較的長期にわたり、地域的な制限もなく、競合企業に雇用されたり、競合事業を起業したり、競業行為をすること、元所属会社の顧客と交渉したり、受注することを広範囲に禁止するもので、職業選択の自由の制約が大きいにもかからず、元従業員らの給与水準はそれほど高額だったと言えないことから、制約の大きさに対する代償措置の対価が含まれていたとは考えられないと判断しています。
また、元従業員は元所属会社の在職中に取引のあった顧客から受注しているものの、営業活動を防止するなど背信性の高い競業行為をしているという認めるに足りる証拠はなく、退職時の合意ないしその一部が有効であると解することはできないとして、この合意は合理的な制限の範囲を超えるものであり、公序良俗に反し無効と判断を下しました。
元従業員は、元の会社の取引先から受注を獲得するにあたり、商品参考画像として元会社の製品画像を使用して提案を行い受注を行ったとのことですが、この点については、著作権侵害等を構成する余地はあるとしつつも、営業妨害というほどではないということで、総合的には正々堂々と営業活動を行った結果であり、問題ないと判断したということでしょう。
代償措置がなかったとしても、競業避止合意が必ずしも無効と判断されるわけではないので、この事案において仮に制限期間が3年ではなく1年(ないし6ヶ月)であったとしたら判断は変わっていたのかもしれません。