株式譲渡代金の調整条項で支払われる代金の収入時期
T&A master No.728の未公開裁決事例に「株式譲渡代金の調整条項で支払われる代金の収入時期」というものが紹介されていました。
この裁決事例は、株式譲渡の代金の一部が会社の将来における業績に応じて算出される金額をもって分割して支払うとされている場合に、当該条件に応じて支払われた対価の収入時期が争われたものです。
具体的には、新興企業の経営者であった請求人は保有する株式を投資ファンドに売却することを計画し、アドバイザリーに企業価値算定を依頼したところ、DCF法によって40億円という価値が算定され、それを参考に企業価値を60億円と見積もった上で、投資ファンドと価格交渉したとされています。
投資ファンドは、当該株式の受け皿として新たに会社を設立するとともに、請求人に経営リスクを分担させるため、業績に応じて対価が変動する条件を付したとのことです。一方で他の株主との株式譲渡契約では、このような条件は付されておらず、譲渡実行日に一括して代金を支払うと定められていたとのことです。
請求人は、当該条件は、「計画値の達成度合いという不確実な指標により変動する不確実なものであり、かつ、本件計画値は、本件実行日の直近3事業年度の業績を大幅に超える値に設定されており、その達成は容易でなかった」ことから、「売買当事者は、本件譲渡金額の支払請求権について、停止条件を付していたものといえ、当該停止条件が成就するまでは、その収受すべき権利は、法的な効力を有しておらず、私法上確定していたとはいえない」などとして、譲渡した年に収入すべき金額は、上記停止条件が成就するまでは、当初の譲渡代金及び現物出資額の合計額のみであると主張したとされています。
これに対して国税不服審判所は、資産の譲渡に係る譲渡所得の総収入金額の収入すべき時期は、原則として、その所得の基因となる資産の引き渡しがあった日によるものと解されるところ、本件譲渡の実行日に、契約に基づき株券が交付されるとともに、株主名簿に譲受人が株式を取得した旨が記載されたことからすると、株式の引き渡しがあったのは実行日であったと認めるのが相当であると判断しました。
さらに、急成長を成し遂げた生みの親である請求人が引き続き経営に携わること、ある事業年度において計画が達成できず調整金額が支払われない場合であっても、その後の事業年度で計画以上の業績を達成した場合には過去の未達分も含めて支払われることとなっていること、他の株主との株式譲渡契約では譲渡代金の調整条項が定められていないことから、当該調整条項は、基本的には、計画地がいずれの事業年度においても達成され、満額の支払いがなされることを想定して設けられたものとみるのが相当と判断したとのことです。
なお、達成すべき条件も、交渉の過程で当初想定よりも3000万円から1億円ほど下方修正されていたとのことで、達成が困難なものとはいえないという判断につながりました。
以上から、譲渡契約に調整条項が置かれていても、株式の引き渡しがあった実行日に、譲渡に係る収入金額たる譲渡代金全額が確定定期に発生したものと認めるのが相当としたのことです。
審判所は条件が達成困難なものではないという判断を下したわけですが、このケースでは、1株当たりの譲渡価額が同じでありながら、調整条項が付されていない他の譲渡契約があったということが大きかったのではないかと思われます。実際にどの程度条件の達成が困難なのかを判断することはできませんが、継続してうまくいくかどうかについてはリスクがあるのは間違いないので、そういった意味では納税者には酷であるという気はします。