平成30年3月期決算における税効果会計を確認
税務通信3499号に公認会計士・税理士の太田達也氏による「平成30年3月決算における税効果会計の実務~最新の税率を踏まえて~」という記事が掲載されていました。
基本的に追加で改正があったわけではありませんが、近年の改正によって税率変更等が段階的に行われたり、消費税の増税延期等により改正時期が変更になったりした関係で、わかりにくかったりしますが、上記記事では、最新の情報に基づいて、平成30年3月期決算における法定実効税率についてまとめられていましたので、ポイントを確認します。なお、この記事では連結納税を採用している場合についても述べられていますが、以下では基本的に単体納税を適用している法人に関する事項について確認することとします。
1.法人税率
3月決算会社の法人税率は現行の23.4%から、来期(平成30年4月1日以後に開始する事業年度)から23.2%に改正されます。
なお、現行の23.4%は、平成28年4月1日から平成30年3月31日までの間に開始する事業年度に適用されることとなっています。
これにより当期の法人税は23.4%を用いて計算される一方で、来期に解消される一時差異に対しては23.2%をベースとした実効税率で税効果が計算されることとなりますので、影響は小さいと思われるものの、法定実効税率と実際の負担税率の差にも影響を及ぼすことになると考えられます。
2.法人住民税(法人税割)および地方法人税
法人住民税(法人税割)および地方法人税については、消費税増税時期が延期されたことに伴い、税率変更の時期が当初の予定から2年6ヶ月延期され、平成31年10月1日以後に開示する事業年度から税率が変更されることとなっています(改正前は、平成29年4月1日以後に開始する事業年度から)。
したがって、3月決算会社においては、平成33年3月期(平成32年4月1日開始事業年度)から改正後の税率が適用されることとなります。
現行の標準税率(以下括弧内)および、平成31年10月1日以後に開始する事業年度に適用される税率は以下の通りとなっています。
法人住民税 都道府県民税 1.0%(現行 3.2%)
法人住民税 市町村民税 6.0%(現行 9.7%)
地方法人税 4.4%(10.3%)
上記の改正は、「地方法人課税の偏在を是正するための改正であり、国税である地方法人税のウエイトを上げ、それを各地方自治体に適正に配分することにより、地方自治体間の財政格差を縮小するもの」ですが、「合計税率は17.3%(標準税率)で変わらないため、法定実効税率に実質的に影響のない改正」となっています。
3.法人事業税(所得割)および地方法人特別税
地方法人特別税の廃止および法人事業税への復元も、消費税増税の延期に伴い、2年6ヶ月延期され、住民税(所得割)同様、平成31年10月1日以後に開始する事業年度から税率等が改正されます。
地方法人税については、上記記載のとおり、廃止されることとなります。(現行 外形標準適用法人・・・所得割(標準税率)×414.2%、外形標準適法法人以外・・・所得割(標準税率)×43.2%)。
事業税率(所得割)の現行の標準税率(以下括弧内)および、平成31年10月1日以後に開始する事業年度に適用される税率は以下の通りとなっています。
<事業税率(所得割)の標準税率>
(1)外形標準課税適用法人
年400万円以下の所得 1.9%(現行 0.3%)
年400万円超800万円以下の所得 2.7%(現行 0.5%)
年800万円超 3.6%(現行 0.7%)
(2)外形標準課税適用法人以外
年400万円以下の所得 5.0%(現行 3.4%)
年400万円超800万円以下の所得 7.3%(現行 5.1%)
年800万円超 9.6%(現行 6.7%)
事業税率(所得割)の税率だけみると、大きな影響があるように見えますが、一方で地方法人特別税を廃止することにより、税源を法人事業税に戻すだけの改正であるため、法定実効税率には実質的に影響がない改正となっています。
4.地方税の超過税率
「法人住民税率や法人事業税率に超過税率を採用している自治体については、今回は基本的に超過割合の変更は行っていない」とのことです。
なお、税務通信の記事では、神奈川県の超過税率について以下のように言及されています。
「神奈川県は、平成28年4月1日から平成31年9月30日までの間に開始する事業年度に適用される法人事業税(外形標準課税適用法人の所得割)を標準税率0.7%に対して0.875%とし、平成31年10月1日以後に開始する事業年度に適用される法人事業税(外形標準課税適用法人の所得割)を標準税率3.6%に対して3.78%(外形標準課税の所得割)と定めており、超過割合が0.005%異なっている。ただし、小数点2位未満を四捨五入したときの法定実効税率は変わらないことも考えられる」
基本的に影響はないと思われますが、神奈川県の会社は一応注意しましょう。
5.法定実効税率の計算方法
何を今更と感じる方も多いかもしれませんが、事業税率に超過税率が適用されている場合、超過税率を使う部分と標準税率を使う部分があり、うっかり全て超過税率で計算してしまうと法定実効税率の計算自体を間違ってしまうこととなりますので注意が必要です。
これを踏まえて、税務通信の記事では、以下の算式が示されており、計算式はごちゃごちゃするものの、わかりやすくてよいと思いますので、そのまま紹介させていただきます。
なお、上記計算式に基づき、東京都の外形標準課税適用法人の法定実効税率を計算すると、一時差異等の解消時期にかかららず30.62%となるとされています。
一方で、東京都の外形標準課税適用法人以外の場合は、平成30年4月1日以後、かつ、平成32年3月31日以前に解消が見込まれる一時差異等に乗じる法定実効税率は34.59%に対して、平成32年4月1日以後に解消が見込まれる一時差異等に乗じる法定実効税率は34.60%と0.01%相違するとされています。0.01%の相違は一般的に重要性が乏しいと思われますので、34.60で計算してしまっても問題ないものと思われます。
6.その他
法定実効税率以外で取り上げられていた項目として、繰越欠損金の控除限度額があります。繰越欠損金の控除限度額は平成28年税制改正によって、段階的に引き下げられており、平成30年4月1日以後は50%となります。
最後に、米国における連邦法人税率の引き下げの影響についても記載されていました。2017年12月に米国の連邦法人税率の引き下げが決定されたことにより、米国企業において、繰延税金資産及び繰延税金負債の減額修正が必要となります。
米国に在外子会社を有する会社では連結に与える影響も検討済みである可能性は高いですが、「米国では、将来加算一時差異が重要であり、繰延税金負債の額が繰延税金資産の額を上回る企業が多いと思われるが、その場合は税金費用の減額修正により、当期純利益が増加する」とされ、「米国に在外子会社を有する企業の場合、連結の業績に重要な影響を及ぼすことも考えられる」とされていますので、影響を未確認というような場合には、注意しましょう。