コーポレート・ガバナンスコードの改訂案が公表-改訂後の報告提出期限は12月末
東京証券取引所は2018年3月30日にコーポレート・ガバナンスコードの改訂案を公表しました。意見募集は4月29日にまでで、6月を目処に実施する予定とされています。
6月を目処に実施されるということなので、3月決算の会社ではいつまでに対応する必要があるのかと気になっていましたが、T&A master No.734の「東証、CGコード改訂後の報告書は12月までに提出」という記事によれば、「上場会社は、改訂後のコード内容を踏まえたコーポレート・ガバナンスに関する報告書を、準備ができ次第速やかに、遅くとも2018年12月末日までに提出することが求められる」とされています。
遅くともなので、12月末までと呑気に構えていてはいけないのだとは思いますが、焦る必要もなさそうです。
以下、主な改訂点について確認します。
1.政策保有株式(原則1-4)
<現行>
【原則1-4.いわゆる政策保有株式】
上場会社がいわゆる政策保有株式として上場株式を保有する場合には、政策保有に関する方針を開示すべきである。また、毎年、取締役会で主要な政策保有についてそのリターンとリスクなどを踏まえた中長期的な経済合理性や将来の見通しを検証し、これを反映した保有のねらい・合理性について具体的な説明を行うべきである。上場会社は、政策保有株式に係る議決権の行使について、適切な対応を確保するための基準を策定・開示すべきである。
<改訂案>
【原則1-4.政策保有株式】
上場会社がいわゆる政策保有株式として上場株式を保有する場合には、政策保有株式の縮減に関する方針・考え方など、政策保有に関する方針を開示すべきである。また、毎年、取締役会で、個別の政策保有株式について、保有目的が適切か、保有に伴う便益やリスクが資本コストに見合っているか等を具体的に精査し、保有の適否を検証するとともに、そうした検証の内容について開示すべきである。上場会社は、政策保有株式に係る議決権の行使について、適切な対応を確保するための具体的な基準を策定・開示し、その基準に沿った対応を行うべきである。
政策保有株式については全般的に見方が厳しくなっているといえます。まず、「縮減に関する方針・考え方など」という部分から縮減が当然いう印象を受けます。また、従来のリスクとリターンの部分の記載については、あまり言っていることが変わっていないように見えますが、従来は合理性などを具体的に説明すべきとされていたのに対して、改訂案では、目的や投資効率が適切であることを検証した結果を開示すべきとされていますので、やはりレベル感はあがっているといえそうです。
さらに、議決権行使については「具体的な」基準を策定・開示すべきとされており、従来よりも細かな対応が必要となります。
また、原則1-4には以下の補充原則が二つ追加されることとなっています。
1-4① 上場会社は、自社の株式を政策保有株式として保有している会社(政策保有株主)からその株式の売却等の意向が示された場合には、取引の縮減を示唆することなどにより、売却等を妨げるべきではない。
1-4② 上場会社は、政策保有株主との間で、取引の経済合理性を十分に検証しないまま取引を継続するなど、会社や株主共同の利益を害するような取引を行うべきではない。
1-4②はともかく、個人的には1-4①はCGコードにあえて書くようなことなのかという気はします。
2.補充原則4-1③(後継者育成)
補充原則4-1③は2017年7月末時点で実施割合が90%未満となっていた11原則のうちの一つとなっていますが、以下の改訂案が示されています。
<現行>
4-1③ 取締役会は、会社の目指すところ(経営理念等)や具体的な経営戦略を踏まえ、最高経営責任者等の後継者の計画(プランニング)について適切に監督を行うべきである。
<改訂案>
4-1③ 取締役会は、会社の目指すところ(経営理念等)や具体的な経営戦略を踏ま
え、最高経営責任者(CEO)等の後継者計画(プランニング)の策定・運用に主体的に関与するとともに、後継者育成が十分な時間と資源をかけて計画的に行われていくよう、適切に監督を行うべきである。
時間と資源を十分にかけて行うというのは当然のことだと思われますが、「策定・運用に主体的に関与」という部分もよい改訂だと感じます。権力の強い社長の後継者に対して、社長の顔色をうかがって取締役会が日和るということもありがちなので、事務方として(効果はない可能性は高いものの)「主体的に関与」しないとだめなんですと言えるのはよいと思います。
3.CEOの選解任等の(補充原則4-3②、③)の新設
従来の補充原則4-3②は同④に繰り下げられ、以下の二つの補充原則が追加されることとなっています。
4-3② 取締役会は、CEOの選解任は、会社における最も重要な戦略的意思決定であることを踏まえ、客観性・適時性・透明性ある手続に従い、十分な時間と資源をかけて、資質を備えたCEOを選任すべきである。
4-3③ 取締役会は、会社の業績等の適切な評価を踏まえ、CEOがその機能を十分発揮していないと認められる場合に、CEOを解任するための客観性・適時性・透明性ある手続を確立すべきである。
選任と解任で考えると、CEO解任の手続きについて「客観性・適時性・透明性」が保たれた手続きがあるといえるかなという方が気になったものの、取締役の任期を1年にして、毎年総会で選任されていれば、基本的に「客観性・適時性・透明性」は保たれているという説明はできるのではないかと思います。
4.独立社外取締役(原則4-8)
独立社外取締役の人数については、「少なくとも3分の1以上の独立社外取締役を選任することが必要と考える上場会社は、上記にかわらず、十分な人数の独立社外取締役を選任すべきである」とされたものの、「2名以上選任すべき」という点に変化はありません。
5.経営計画の策定・公表(原則5-2)
<現行>
経営戦略や経営計画の策定・公表に当たっては、収益計画や資本政策の基本的な方針を示すとともに、収益力・資本効率等に関する目標を提示し、その実現のために、経営資源の配分等に関し具体的に何を実行するのかについて、株主に分かりやすい言葉・論理で明確に説明を行うべきである。
<改訂案>
経営戦略や経営計画の策定・公表に当たっては、自社の資本コストを的確に把握した上で、収益計画や資本政策の基本的な方針を示すとともに、収益力・資本効率等に関する目標を提示し、その実現のために、事業ポートフォリオの見直しや、設備投資・研究開発投資・人材投資等を含む経営資源の配分等に関し具体的に何を実行するのかについて、株主に分かりやすい言葉・論理で明確に説明を行うべきである。
さらっと書いてありますが「自社の資本コストを的確に把握した上で」とされているので、改訂後は原則5-2を「実施」としつつ、総会で資本コストはどれくらいかと聞かれて答えられないというようなことがないようしておかないといけませんね。
以上が主な改訂部分となりますが、上記の他にも改訂が予定されている部分はあるので、早い段階で改訂案に一度目を通しておくことをおすすめします。