「会社法制(企業統治関係)の見直しに関する中間試案」を確認(最終回)
「会社法制(企業統治関係)の見直しに関する中間試案」を確認(その2)の続きです。
4.取締役等に関する規律の見直し(続き)
取締役等への適切なインセンティブの付与で取り上げられている残りの項目から確認します。
(2)会社補償
これは、現行の会社法では、会社補償に関する規定がなく、どのような手続により、どのような範囲のものを株式会社が補償することができるかなどが不明確であるという指摘や、会社報奨には構造上の利益相反性が認められることなどから、会社法に規定を設け、適切な運用がなされるようにすべきであるという指摘がなされていることに対応するものです。
すなわち、役員が職務の遂行に関し、責任追及や法令違反を疑われることとなった場合には、当該事由により要する費用(相当と認められる額に限る)について、また、第三者に加えた損害を賠償する責任を負う場合の賠償額(会社への賠償金は除外。善意でかつ重大な過失がないとき)については、費用等の全部または一部を株式会社が補償する契約を取締役等と締結することができるものとするとされています。
補償内容は取締役会設置会社では取締役会決議によるものとされ、当該契約については、利益相反取引規制の対象とはならないとされています。最後に、補償契約を締結した場合は、その概要を事業報告の内容に含めなければならないとされています。
(3)役員賠償責任保険
いわゆるD&O保険は実務上既に契約されている会社も多いと思いますが、会社法上は、D&O保険に関する規定はなく、D&O保険を締結するにはどのような手続が必要であるかについての解釈は必ずしも確立していないという指摘や、D&O保険には構造上の利益相反性が認められることから、会社法に規定を設け、適切な運用がされるようにすべきであるという指摘に対応するものです。
実務上は以前からD&O保険が利用されていましたが、少し前までは、税務上、役員個人が保険料の一部(10%程度)を負担する必要があるとされていたものが、平成28年2月24日に国税庁が「新たな会社役員賠償責任保険の保険料の税務上の取扱いについて(情報)」を公表し、現在は、一定の条件を満たした場合は、株主代表訴訟担保特約部分の保険料についても会社が負担することができることとされています。
中間試案では、D&O保険の内容を決定する場合には株主総会決議(取締役会設置会社の場合は取締役会決議)によらなければならないもとし、D&O保険を締結している場合には、その概要を事業報告に記載することが必要となります。
5.社外取締役の活用等
この項目で取り上げられている項目の一つに、「社外取締役を置くことの義務づけ」があります。
さらっと記載されていますが、A案は有価証券報告書提出会社は社外取締役を選任しなければならないものとするとなっており、B案は現行の規律を見直さないものとするとなっています。
どちらになるかは今後の検討事項ではありますが、上場会社では社外取締役の選任率が約97%と相当高い水準になっていることからすると、人数が1名でよければ選任義務づけという結論はあってもおかしくはないと考えられます。
6.「その他」
その他として取り上げられている項目には、社債関連の項目、株式交付制度の創設や登記事項の見直しなどががありますが、ここでは株式交付制度及び登記事項について確認します。
(1)株式交付制度の創設
現行の会社法では、対象会社を完全子会社とすることまでは考えていない場合は株式交換は使用できないため、株式会社が他の株式会社を子会社化するために自社株を使用する場合には、対象会社の株式を現物出資財産として募集する必要があるが、検査役調査を要したり、填補責任を負う可能性があることなどが障害になっているという指摘がなされていました。
これに対応し、株式交付制度を創設し、現物出資財産に係る検査役調査や募集株式の引受人及び取締役の財産価額填補責任に相当する規定の適用はないものとした上で、株式交付親会社及び債権者の保護については、株式交換と同様の規律があるものとするとさされています。
(2)登記事項の見直し
登記事項については、新株予約権に関する登記について、払込金額またはその算定方法等の登記を不要とする案が提案されています(A案)。現行実務ではブラックショールズモデルの詳細や算式などを登記することが行われており、煩雑で申請者の負担になっているという指摘に対応したものとなっています。
最後にしてんの所在地における登記を不要とする案が示されています。そもそも支店の所在地の登記はなぜ必要なのかですが、支店だけと取引する者は本店の所在地を正確に把握していないことがあるからとのことで、確かに一理ありますが、今時はインターネットで検索や法人番号からの検索で本店を検索することも可能となっているので、支店所在地の登記を不要とすることが提案されています。
以上で、中間試案の確認を終わります。