米国のFS作成者の75%はのれんの償却に賛成しているらしい
経営財務3433号に米国のFASBで行われているコメント募集(「識別可能な無形資産及びのれんの事後の会計処理」)に寄せられたコメント動向の分析結果(速報)が掲載されていました。
この記事が執筆された時点で寄せられたコメントは約100件とされ、個人からのコメントを除いた84件を対象に分析が実施されています。
この中で「質問3(償却及び減損モデルの再導入の賛否) コストと便益を基礎として、現行の減損のみモデルと比較して、のれんの償却及び減損テストを支持(又は反対するか。」に対する回答結果が回答者の属性別にまとめられています。
そして、コメントを寄せた作成者のうち18件(75%)は賛成というコメントを寄せたとのことです。なお、利用者からの反対コメントは5件となっていますが、そのうち4件は電力・ガス業界から寄せられているとされ、利用者からの反対は業界の特性によるものと捉えることができそうです。
一方、利用者のうち評価会社・アナリストは反対に11件(78.6%)が反対のコメントを寄せたとのことです。利用者のうち金融機関は賛成10件、反対8件とやや賛成が多くなっていますが、概ね半々という結果となっています。
面白いのは監査人で、コメントを寄せた監査人21件のうち、15件(71.4%)が賛成のコメントを寄せており、なんと反対は0件、保留が5件、不明が1件となっています。
作成者からの賛成理由として記載されていた一部を紹介すると、「現行の減損のみモデルは、便益と比較して作成者のコスト(監査コスト、外部の専門家のコストを含む)が高すぎる。」、「のれんは時の経過とともに減価する資産であり、永久の耐用年数があるわけではない」、「取得のれんの償却は、そのような減価を反映するものであり、取得後の自己創設の認識を回避できる。現行の減損テストのみモデルでは、この自己創設のれんに覆い隠される効果(シールド効果)により、減損のタイミングが遅れがちになる。」などといったものがありました。
一方、作成者からの反対理由(主に電力・ガス業界)として記載されていたものとしては、「償却及び減損モデルでは,償却期間が主観的・恣意的になり、有用な情報を提供しない。のれんの償却が早く進みすぎ,のれんの価値が本来より低く評されることがある。」、「償却及び減損モデルでは、利益にマイナスの影響を与え、将来の買収意欲を減退させる。」、「償却及び減損モデルを導入すると、財務制限条項等に影響を与え、事務や法務コストが高くなる」というものがあったとのことです。
作成者の賛成コメントにある作成者のコストが高すぎるという点については、「質問2(減損のみモデルのコストと便益)現在ののれんの減損のみモデルが提供する情報の便益は、情報を提供するコストを正当化するか」に対するコメントとして「否定的なコメントが多数出されている」として、「報告単位の公正価値の算定に主観性があり、監査コストと監査リスクを増大させる。」、「多くの企業にとって、報告単位の公正価値を評価するために、外部の専門家が必要となり、そのコストが高い」というコメントがあったとされています。
そして、上記の具体的な例として、ある会社では「2019年度のれんの減損テストのために約1,000時間がかかった」という事例が紹介されているとともに、Zinos Bancorporation(銀行)では、「2017年度の10億ドル(総資産の1.5%)ののれんの減損テストのために、600頁以上のワークペーパーを準備し、監査に2,500時間以上かかった」という例が紹介されています。
米国での監査報酬水準は日本よりも高いこと、専門家の利用などのコストも考えると、監査に2,500時間かかるということは、これだけで5,000万円以上(もしかすると1億円近く)の監査コストがかかっていると推測されます。当然監査の前に、監査に耐えうる資料を作成者側が準備しなければならないため、会社側の事務コストも考えると、確かにコストがかかりすぎるというのも理解できます。
ここで気になるのは、IFRSを任意適用している日本企業でのれんに関する監査コストはどれくらいなのだろうかという点です。単純に上記の事例と比較することはできないとしても、例えば、ソフトバンクグループののれんは4.3兆円で総資産の10%以上と巨額ですので、いったいどれくらいの時間とコストをかけて検討が行われているのかが非常に気になるところです。
見通しが甘かったとして巨額の赤字を計上するような会社の見積の妥当性を評価するのは監査人としては非常に難しいというのは容易に想像でき、米国でのコメントと同様、日本でも監査人は償却に賛成というのが多いのではないだろうかという気がします。
最終的に米国基準でもどうなるのかはわかりませんが、場合によってはIFRSの処理にも影響を及ぼす可能性があるため、米国の成り行きには注目です。