自社株対価M&Aの課税繰延は今後の検討課題に
会社法の改正により、株式交付制度が創設され自社株を対価としたM&Aが可能となるという旨は以前取り上げましたが、この制度に対する税務上の取扱いについては、令和2年度税制改正大綱で「検討事項」とされるにとどまりました。
経済産業省から令和2年度税制改正要望事項として「自社株式等を対価とした株式取得による事業再編の円滑化措置」があがっていましたが、大綱では「5 自社株式を対価とした公開買付け等に係る課税のあり方については、会社法制の見直しを踏まえ、組織再編税制等を含めた理論的な整理を行った上で、必要な税制措置について検討する」とされています。
経済産業省の要望では以下のとおり述べられていました。
(前略)
欧米諸国においては、組織再編は企業の発展にとって必要であり、阻害しないことが必要であるという認識の下、一定の割合以上の株式を交換する取引に対して課税繰延を認めている。他方、我が国の現行制度では、自社株式等を対価とした株式取得により他社事業を取得する場合、組織再編税制においては、適格株式交換の場合に限り、対象法人の株主の株式譲渡益に対する課税繰延を認めており、諸外国と比べて、我が国企業の事業再編の手法に関する選択肢が狭まっている状況。
自社株式等を対価とした株式取得による事業再編については、企業が新たな付加価値の創出・獲得に向けたオープン・イノベーションの促進に有効な手法であり、我が国企業の収益性の向上に資するものと考えられる。
このため、株価対策M&Aの課税繰延を講じることで、我が国における事業再編の円滑化を図る。
現在においても、会社法の特例として産業競争力強化法で株式交付制度が定められているため株対価TOBは可能ではありますが、事業再編計画に対する主務大臣の認定が必要となることや税制面でのメリットがないことから、これまで株対価TOBの実例はありませんでした(経営財務3438号「改正会社法の実務上のポイント 第2回」)。
株対価TOBに応じた株主は買収側の株式を受領しますが、保有していた被買収会社株式については譲渡したものとして株式譲渡益について課税がなされてしまうということで、Cash化のニーズがない被買収会社の株主にとっては納税資金を工面しなければならないということとなり、メリットがないというよりもむしろデメリットがあるというケースも想定されます(買い取り価格にどれだけプレミアムが乗るかにもよりますが)。
米国、英国、フランス、ドイツでは株式対価M&Aに係る課税繰延措置が講じられているとのことですので、日本においても近いうちに同様に課税繰延措置が講じられることとなることが予想されますが、組織再編税制を踏まえて今回の税制改正に織り込むには時間が足りなかったということだと思われます。日本企業の競争力を維持するという観点しても来年の税制改正には織り込まれるのではないかと思われます。