スチュワードシップ・コードの再改訂内容を確認
2020年3月24日に金融庁に設置された「スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会」(令和元年度)において、「『責任ある機関投資家』の諸原則<日本版スチュワードシップ・コード>」の再改訂版が公表されました。
改訂内容を確認しようと思いつつ放置されていたところ、T&A Master No.835に改訂の概要を解説した記事が掲載されていたので、ざっと内容を確認することとしました。
個人的には少し前に改訂されたような気がしていましたが、前回の改訂は2017年5月ですので約3年ぶりの改訂となっています。
上記記事によると、今回の改訂は、本コード全体に関わる改訂と主体ごと(運用機関、アセットオーナー、議決権行使助言会社、年期運用コンサルタント等のサービス提供者)の改訂に大別できるとされています。
全体に関わる点としての改訂の概要は以下のとおりとなっています。
- サステナビリティ(ESG要素を含む中長期的な持続可能性)の考慮
- コードの目的に沿うスチュワードシップ活動ができる場合における、上場株式以外の資産(債券等)に投資する機関投資家へのコードの適用
- 中長期的な企業価値の向上及び企業の持続的な成長という目的にスチュワードシップ活動が向けられたかを意識すべき
主体別の改訂に関しては、色々とありますが、直接投資家と対話を担当する部門以外の会社側の担当者としては、運用機関に対して、外観的に利益相反が疑われる議案や議決権行使方針に照らして説明を要する判断を行った議案等、投資先企業等の建設的な対話に資する観点から重要と判断される議案について「賛否の理由」を公表すべきとされている点は頭に入れておくとよいと思います。
まず、全体に関わる改訂としてサステナビリティの考慮が改訂に織り込まれていますが、この点について、従来同様、企業価値の向上や企業の持続的成長を促すことにより、顧客・受益者(最終受益者を含む)の中長期的な投資リターンの拡大を図ることが本コードの目的であるという点は飽くまでも維持されているという点には注意が必要です。
ESG銘柄への投資が増加しているというのは確かだと思いますが、個人的にはESGやSDGsへの取組みが投資家対策として必要以上にクローズアップされすぎているように感じます。ESGやSDGsへの取組を否定するつもりはありませんが、ESGやSDGsというと、中長期的な業績に関係するかどうかわからなくても、なんとかくよいことをしている感じがして盛り上がるというリスクも高く、そういった意味で、投資家に対して中長期的な投資リターンの拡大を図るという文脈で妥当な取組であるのかという点をきっちり考えて対応するというのが会社にとっては重要だと考えられます。
また運用機関に関する改訂について、「投資先企業等の建設的な対話に資する観点から重要と判断される議案について「賛否の理由」を公表すべきとされたことにより、重要な議案について賛否の理由が明らかにされる可能性が高くなるというのは、個人的には結構期待しています。
反対の場合だけでなく、賛成の場合の理由も明らかにされると、会社としては投資家の期待を踏まえて今後どのように企業を運営していくのかの指針となり、有用だと思います。
最後に、脚注17では「例えばガバナンス体制構築状況(独立役員の活用を含む)や事業ポートフォリオの見直し等の経営上の優先課題について投資先企業との認識の共有を図るために、業務の執行には携わらない役員(独立社外取締役・監査役等)との間で対話を行うことも有益であると考えられる。」とされています。
脚注なので読み飛ばしてしまいそうですが、投資家が社外取締役と対話を希望するというような流れが今後増えてくるのではないかと思います。
今回の改訂について、コードを受入れている機関投資家等は遅くとも2020年9月末までに、本改訂の内容を踏まえて、再改訂版コードの各原則に基づく公表項目の更新を行い、その旨を金融庁に通知することが求められています。ただし、3月に公表されたのは、2020年の株主総会シーズンから再開訂版のコードを念頭に置いた対応を行う事ができるようにという観点からとされていますので、6月の議決権行使から賛否の理由が明らかにされるようなケースが増えてくるのかもしれません。