グループ通算制度の概要(その1)-概要
連結納税制度については、導入したらグループ全体で税金を節約できるだろうなと考えつつも、単体納税に比べて事務負担がかなり重くなるといわれていることに加え、一度はじめたら基本的にやめられないことから導入を躊躇していたということもあると考えられます。
そのような中、令和2年度税制改正において、グループ通算制度が導入されることとなりました。この制度では、従来の連結親法人がまとめて申告する方式から個別申告方式へ移行することとされているため、グループ内の1社で生じた修正により全部やり直しというようなことが回避できるようになります。
グループ通算制度は、2022年4月1日以後開始する事業年度から適用開始となっていますので、実際に導入するとしてもしばらく先のこととなりますが、導入するかどうかを検討する上で制度の概要を理解しておいたほうがよいと考えられます。
そこで、ポイントを理解するため「これだけ!グループ通算制度」(佐藤信祐、紙本好太郎著、中央経済社)でグループ通算制度の内容をざっと確認していきます。
1.グループ通算制度の導入目的
「連結制度の見直しについて」(連結納税制度に関する専門家会合)では、
①事務負担の軽減を図るための簡素化
②グループ経営の多様化に対応した中立性・公平性の観点
が掲げられているものの、①が主な理由だと考えられるとされています。
冒頭にも記載したとおり、連結納税制度の事務負担が重いという話は、税の専門家でなくてもよく耳にするので、①が主な理由というのは納得です。
そのため、グループ通算制度では、完全支配関係のある内国法人間で損益通算を行うという連結納税制度の基本的な考え方は維持しながらも、個別申告方式を採用することで簡素化が図られています。これにより、後日修正申告や更生が行われた場合であっても、他の連結法人の課税所得や法人税額の計算に影響を与えないようになっています。
2.グループ通算制度の適用範囲
グループ通算制度を採用する場合、通算親法人による完全支配関係のあるすべての法人をグループ通算制度に含める必要があり、一部の100%子会社を除外するということはできません。
グループ通算制度は、連結納税制度と同様に出口のない制度であり、一度グループ通算制度を選択した場合には、原則として継続適用が必要とされています。
また、連結納税制度を導入していた連結納税グループは、原則として自動的にグループ通算制度に移行することが原則とされています(改正法法附則29①)。ただし、グループ通算制度への移行は、連結納税制度を承認申請をした時点では予測し得なかったことから、グループ通算制度への移行を望まない連結納税グループは、グループ通算制度が施行する前に連結親法人が届け出ることにより、グループ通算制度へ移行しないことができる(改正法法附則29②)とされています。
つまり、もはやメリットはないので連結納税制度をやめたいと考えていたグループにとっては、単体納税制度に戻れる千載一遇のチャンスともいえます。
3.グループ通算制度を採用するための申請・承認
グループ通算制度の適用を受けようする場合には、原則として、その親法人のグループ通算制度の適用を受けようとする最初の事業年度開始の日の3月前の日までに、その親法人及び子法人すべての連名で、承認申請書をその親法人の納税地の所轄税務署長を経由して、国税庁長官に提出する必要があります(法64の9②)。
連結納税制度を採用していない3月決算会社が、グループ通算制度が適用開始となる令和5年3月期(令和4年4月1日以後開始する最初の事業年度)からグループ通算制度の適用を受けようとする場合には、令和3年12月31日までに申請書を提出する必要があるということになります。
3カ月前までに届出が必要となるという点には注意しておきましょう。
申請がグループ通算制度の適用を受けようとする最初の事業年度開始の日の前日までに申請についての通算承認又は却下の処分がなかったときは、その親法人及び子法人のすべてについて、その開始の日において承認があったものとされます(法64の9⑤⑥)
なお、設立初年度からグループ通算制度を開始する場合などには一定の特例が設けられていますが、ここでは割愛します。
4.グループ通算制度の申告・納付
個別申告方式が採用されているため、それぞれの法人が法人税の申告及び納付を行う必要があります。ただし、同一の通算グループにおける法人税に対して、連帯納付責任が課せられているというのは、連結納税制度と同様です(法法152)。なお、地方税については連結納税制度と同様、グループ通算制度は導入されていません。
また、申告期限の延長も、連結納税制度と同様2か月の延長が認められています(法法75の2⑪)
今回はここまでとします。