公認会計士のM&A仲介トラブル-会計士・会社双方の請求を認めず
公認会計士が行ったM&Aの仲介業務に関する報酬に関連して、訴訟になった事案がT&A master NO.857に掲載されていました。
この記事で紹介されていた事案は、東証2部の上場会社が実施したM&Aの仲介業務を担当した公認会計士に対して、会社は不正会計処理を見逃したとして損害賠償を請求したとのことです。
より具体的には、会社が買収を検討していた企業が一部現金主義による会計処理をしていたことを認識していたが、これを告知することを怠り会社に損害を生じさせたとして当該公認会計士に対して約3億5000万円の損害賠償を求めたとのことです。会社は、当該事項は買収を実行するか否かの判断において重要な影響を与える事項であるため、仲介契約に基づく善管注意義務違反であると主張したとのことです。
これに対して、公認会計士は、現金主義による会計処理をしていることを認識したが、本件会計処理を是正した場合、対象会社において会計上又は税務上の影響が生じるのかという点及び影響が生じるとしていかなる規模の影響なのかという点については一切認識していなかったと主張したとされています。
東京地裁は、当該会計処理は企業会計原則に反するもので、規模のいかんによっては重要性の原則に照らしても許容されない可能性があるため、その規模を把握していない場合、現金主義による会計処理がされていること自体が株式譲渡における譲渡価額の決定に関して重大な影響を与えうるものであったとして、会計士は会社に対して、仲介契約に基づく善管注意義務として、対象会社が現金主義による会計処理をしていることを告知する義務を負っていたと認められると判断しましたが、会計士が対象会社に対するDDを行った資料であるQ&Aシートには、一部の取引に対して現金主義による会計処理を行っている旨が記載されており、会社は対象会社が現金主義による会計処理を行っていたことを認識しうる状態になっていたため、告知義務違反はないとして、会社の主張を斥けたとのことです。
なお、公認会計士は当該M&Aの仲介報酬として、会社に対して時価純資産レーマン方式により計算した報酬を請求していましたが、当該訴訟が提起された後、仲介契約書では時価総資産レーマン方式で報酬額を計算すると記載されていたとして、受領済みの報酬を控除した約5200万円(受領済みの報酬は約3500万円)の支払を求める訴訟を提起したとのことです。
これに対して裁判所は、会社は取締役会で仲介契約に基づく報酬は株式の譲渡金額に一定の割合を乗じる方式で算定すると説明するなど、当初から一貫して時価純資産レーマン方式であると認識していたと認められ、一方、公認会計士も算定方法が報酬金額に大きく影響する重要な事項であるにもかかわらず、本件訴訟に係る紛争が顕在化するまで、特段の異議を述べなかったのであるから、仲介契約に基づく報酬金額の算定方式が時価純資産レーマン方式であると認識してたことが認められるとして、公認会計士の請求も認められないとしたとのことです。
会社からすれば3500万円も仲介手数料として支払って、重要な事項をきちんと報告してくれなかったという認識だと思いますが、M&Aの仲介者は対象会社に関する情報をまとめて提供してくれるものの、必要なDDは会社が別途実施するということが一般的なのではないかと思います。
もっともこの会社と会計士の間で対象会社のDDについてどのような取り決めがあったのかはわかりませんが、契約書で報酬の決定が時価総資産レーマン方式となっているにもかかわらず契約を締結してしまっているということなども考慮すると、やはり会社側に問題があったように感じます。とはいえ、会計士側も、契約書の報酬額の算定が時価総資産レーマン方式であったということに気づいていなかったというわけですから、サービスの提供レベルが報酬に見合うものであったのかについては微妙な感じも漂っています。
教訓としては、仲介まかせではなく必要なDDは費用をかけてきちんと実施すべしということでしょう。