東証1部上場会社の議決権行使書面の行使期限を巡る判決
T&A master No.901の特集で、東証1部上場会社の乾汽船の定時株主総会を巡って争われた裁判が紹介されていました。
この事案は、乾汽船の株主が、定時株主総会における取締役選任議案等を可決する各決議には招集通知の発送日の期間制限違反等の瑕疵があり、招集手続又は決議方法に法令半島があるとして、株主総会決議の取消をもとめたというものです。
結論としては、2021年4月8日に東京地方裁判所は、議決権行使書面の行使期限に関する法令違反があるとしたものの、瑕疵の程度は重要ではないとの判断を示し、原告の株主総会決議の取消請求を裁量で棄却したとのことです。
この裁判は、多くの点で争われたものですが、この中で、実務上改めて確認しておいた方がよいと思われるのは、招集通知の発送日および議決権行使の書面の議決権行使書面の法律違反の有無について争われた点です。
上場会社では、会社法で最低限求められる期間よりも前に株主総会の招集通知を発送すようになってきていることや、スケジュール等については証券代行業務を委託している信託銀行が確認していることなどから、期限関係についてはそれほど気にしなくなっているということも多いのではないかと思われます。
しかしながら、様々な要因によって会社法の法定期限ぎりぎりでスケジュールを組んでいるというケースもあるため、今回問題となった事項を確認しておく意味はあると思います。
さて、今回争いとなった招集通知の発送期限の法令違反の有無は、議決権行使書面の行使期限とした時刻と同社の営業終了時刻が相違していたことに起因するものでした。
会社法上、議決権行使書面の行使期限については株主総会の日時の直前の営業時間の終了時が原則とされています(会社法311条1項、同施行規則69条)。しかしながら、取締役会は株主総会の招集の決定に際し、「特定の時」を議決権行使書面の行使期限として定めることができるとされています。ただし、同期限は招集通知を発した日から2週間を経過した日以後の時に限られるとされています(会社法298条1項5号、同施行規則63条3号ロ)。
株主総会の招集通知については、2週間前までに発送しなければならないとされていますが、この場合の2週間とは、株主総会の日と招集通知を発する日との間に中2週間あることが必要とされるため、いいかえれば株主総会の日の15日前が招集通知の発信期限となります。
ここで、議決権行使書面の行使期限を株主総会の日の前日とした場合には、行使期限は招集通知を発した日から2週間を経過した日以後でなければならないため、最低限、株主総会の日の16日前に招集通知を発送しなければならないということになります。
上記で争いとなったケースでは、株主総会の日の15日前に招集通知および議決権行使書面を発送していました。しかしながら、議決権書行使書面の行使期限を株主総会の前日の17時に設定したことにより、同社の営業時間は9時~17時20分であったため、株主総会の前日を「特定の時」として設定したこととなり、会社法の要件を満たすためには株主総会の日の16日前に招集通知を発送しなければならなかったため、会社法の規定に違反することとなってしまいました。
EDINETで同社の過去の招集通知を確認してみると、従来から行使期限は総会前日の午後5時とされていましたので、営業時間に変更がなかったとすると従来から同様の取り扱いを継続していたということのようです。実務を担当する立場からすると、営業時間が午後5時20分までであっても午後5時20分というのはあまり恰好良くはないので午後5時としてしまおうと考えてしまうということもあり得る話だと思います。特に、営業終了時刻近くであれば、日数では差がなく特に影響はないだろうと判断してしまうことも想像できます。
しかしながら法的にはたった20分の違いであっても、招集手続きの適法違法がかわってしまうわけですが、この点について裁判所は、「招集手続の瑕疵は株主の書面による議決権行使に関する権利を制限するものであり看過することはできないとするものの、特定の時を定めなかった場合の議決権の行使期限は、被告の営業時間の終了時である午後5時20分であって、本件行使期限から20分間伸長されるにすぎず、株主の議決権行使に与える影響が大きいとまではいえないこと、また、午後5時をもって営業時間の終了とすることが我が国のビジネス慣行上広くみられることに照らし、瑕疵の程度は重要でないと判断」したとのことです。
結果的に大きな問題とはならなかったわけですが、適法ではないという事実に変わりはありませんので、議決権行使書面の行使期限を総会の前日の営業時間終了時刻以外に設定する場合には招集通知の発送日が会社法上問題ないかに気を付けましょう。