連結納税の税効果(その3)
連結納税を採用した場合の個社での税効果については単体納税の場合と同様に税効果の対象となるものには以下の二つがあります。
- 財務諸表上の一時差異等に係るもの
- 繰越欠損金に係るもの
前回は2.繰越欠損金に係るもののの法人税分まで書いたので、今回は残りの住民税と事業税についてです。
繰越欠損金に係る繰延税金資産の金額の計算方法については、「連結納税制度を適用する場合の税効果会計に関する当面の取扱い(その2)」Q2で示されており、そこで示されている内容を確認していきます。
(2)住民税
(イ) 繰越欠損金
・連結欠損金個別帰属額(特定連結欠損金個別帰属額を含む。)
・控除対象個別帰属調整額(地方税法第53条第6項参照)
・控除対象個別帰属税額(地方税法第53条第9項参照)
(ロ) 適用税率
・法人税率×住民税率/(1+事業税率)
ただし、控除対象個別帰属調整額及び控除対象個別帰属税額については、住民税率/(1+事業税率)
住民税については、繰越欠損金に「連結欠損金個別帰属額」「控除対象個別帰属調整額」「控除対象個別帰属税額」と三種類も出てきて何のことだか理解しにくいですが、このような区分が必要になるのは、住民税が法人税額をベースに計算される税金であることに起因しています。
そもそも連結納税制度が創設される前は、住民税に繰越欠損金という概念は存在しませんでした。なぜならば、繰越欠損金を利用して法人税額が小さくなれば、法人税額を課税標準とする住民税も小さくなったため特に不都合がなかったためです。
ところが、連結納税制度では、法人税ではその法人の欠損が他の法人の所得から控除されれば使用済みとなりますが、住民税では他の法人の課税標準から控除することができないため未使用のまま残ることになります。そして、仮に単体納税と同様に法人税額に連動した住民税を課すこととすると法人税で使用済みとなった欠損金については住民税では使用できないこととなってしまいます。
そのため、このような弊害をなくすため、上記のような三つの区分に分けられています。
以下、各項目の内容について確認します。
まず、「連結欠損金個別帰属額」は、法人税と同様で、連結納税グループ全体で欠損となった場合に、個社に割り当てられた繰越欠損金のことを意味します。個社の欠損金で他の法人の所得から控除しきれずに連結欠損金となった部分については、将来法人税において控除することができ、それによって住民税も減ることになるため単体納税の場合の繰越欠損金と同様に考えることができます。
なお、連結欠損金の個社への割り振りは、連結欠損金の発生額を個別欠損金額(連結欠損金考慮前)の比で按分して計算すると考えておけばよいと思います。
連結欠損金の個別帰属額の計算方法の簡単な例を示すと以下のようになります。
次に、「控除対象個別帰属調整額」ですが、繰越欠損金の持ち込みが認められる一定の要件を満たさないため、法人税で切り捨てられた連結納税開始前の欠損金を意味します。法人税法上は繰越欠損金が切り捨てられてしまいますが、連結納税は住民税には影響しないため連結納税開始前に生じていた住民税の繰越欠損金はそのまま引き継ぐことが可能となります。
そのため、将来の住民税を減額する効果を引き続き有することとなって、税効果の対象となります。
最後に「控除対象個別帰属税額」ですが、これはマイナスの個別帰属法人税額を意味します。あるいは連結納税開始後の受取法人税額と考えてもよいと思います。
これは、連結納税グループ全体では所得が生じているものの個社ベースでは欠損となっている会社(最初の例でいうS2社)をイメージすればよいと思います。つまり連結納税グループ全体では所得が生じているので法人税法上は個社でも繰越欠損金が発生しませんが、住民税法上は個社で生じている欠損はそのまま残り、この欠損金が「控除対象個別帰属税額」といわれるものになります。
上記のように住民税法の繰越欠損金には三パターンが考えられるため、繰延税金資産の計算方法も三つに区分して記載すると以下のようになります。
連結欠損金個別帰属額×((法人税率×住民税率)/(1+事業税率))
控除対象個別帰属調整額×(住民税率/(1+事業税率))
控除対象個別帰属税額×(住民税率/(1+事業税率))
連結欠損金個別帰属額については、法人税法上も欠損金なので、算式の分子が法人税率×住民税率となっている点に注意が必要です。
(3)事業税
(イ) 繰越欠損金
・欠損金額又は個別欠損金額(地方税法第72条の23第3項参照)
(ロ) 適用税率
・事業税率/(1+事業税率)
事業税については、単体納税においても欠損金が独自に存在しており、繰越欠損金控除前の法人税の所得をベースとして、そこから事業税独自の欠損金を控除する方法によっているので、連結納税でも同様の取扱いとされています。
なお、事業税では、もともと独自の欠損金の制度があるため、個別帰属損金額のうち連結欠損金を構成した部分についても「連結欠損金個別帰属額」が用いられるのではなく、「欠損金額又は個別欠損金額」とされており、計算式において「連結欠損金個別帰属額」が出てきていないという点が特徴的です。
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