貸倒引当金制度の原則廃止-平成23年税制改正
今回は、平成23年税制改正による貸倒引当金制度の変更点についてです。
大きな改正点としては、貸倒引当金制度の適用対象が以下の法人に限定された点です。別の言い方をすれば、貸倒引当金制度は原則として廃止されたということになります。
1.貸倒引当金制度が継続適用可能な法人
引き続き貸倒引当金制度の適用対象となる法人は以下のとおりです。
(1)中小法人等
(2)銀行、保険会社、これらに類する法人
(3)売買があったものとされるリース資産の対価の額に係る金融債権等(一定の債権)を有する法人
上記(1)の「中小法人等」とは以下の法人を意味します。
①普通法人のうち、資本金の額若しくは出資金の額が1億円以下であるもの(資本金の額が5億円以上の法人による完全支配関係がある法人等を除く。)又は資本若しくは出資を有しないもの(相互会社を除く。)
②公益法人等又は協同組合等
③人格のない社団等
ごく簡単なイメージとしては資本金1億円以下の会社で、大きな会社の100%子会社以外と考えておけばよいと思います。
(3)の「売買があったものとされるリース資産の対価の額に係る金融債権等(一定の債権)を有する法人」は、売買処理されたファイナンスリースに係るリース債権を有している法人ということになるので、典型的にはリース会社が該当しますが、一般的にはあまり関係ないように思います。
なお、この適用の対象については法人の種類についても金融関連業を営む法人に限定されているので、一般事業会社でたまたま売手のファイナンスリースに該当する取引が生じとしてもその債権が貸倒引当金制度の対象となるわけではありません。
2.個別評価金銭債権の取扱いは?
「貸倒引当金制度の廃止」なので一括評価金銭債権であろうが、個別評価金銭債権であろうが廃止になるはずなのですが、個別評価金銭債権については相当の確率で実際に貸倒れになるようなものなので、私だけかもしれませんが、個別評価金銭債権は別の取扱いがあるのではないかと期待(というよりも、「あるはず」くらいの感覚)してしまいます。
一番手っ取り早いのが根拠条文を確認することなので、法人税法52条1項について改正前後の条文を確認してみました。
(改正前)
内国法人が、更生計画認可の決定に基づいてその有する金銭債権の弁済を猶予され、又は賦払により弁済される場合その他の政令で定める場合において、・・・・(以下省略)
(改正後)
次に掲げる内国法人が、その有する金銭債権のうち、更生計画認可の決定に基づいて弁済を猶予され、又は賦払により弁済されることその他の政令で定める事実が生じていることによりその一部につき貸倒れその他これに類する事由による損失が見込まれるもの(当該金銭債権に係る債務者に対する他の金銭債権がある場合には、・・・(以下省略)
ポイントは最初の表現が「内国法人が」から「次に掲げる内国法人が」に変更されている点です。「次に掲げる内国法人」とは、上記1.で述べた「中小法人等」「銀行、保険会社、これらに類する法人」「売買があったものとされるリース資産の対価の額に係る金融債権等(一定の債権)を有する法人」のことです。
ここから明らかなように、個別評価金銭債権についても原則廃止ということで釈然としない感じも残りますが、現実としてはそう決められています。
3.激変緩和措置
上記1.のとおり、貸倒引当金制度は原則として廃止されてしまいますので、税務上損金算入して計上していた貸倒引当金を取り崩す必要が生じます。
そうすると、会社によっては影響が大きいこともありうるので、今回の税制改正では次のような激変緩和措置が設けられています。
(激変緩和措置)
貸倒引当金制度が継続適用になる法人以外の法人については、平成24年4月1日から平成27年3月31日の間に開始する3年間の経過措置事業年度において4分の1ずつ損金算入限度額を縮小し、最終的に廃止する(平成23年改正法附則13)
貸倒引当金繰入額を毎期一定とすれば、今まで損金算入して計上されてきた貸倒引当金残高を4分の1ずつ取り崩していくということと同じです。
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