取締役会議事録の押印は実印でなければならない?
ある冊子で、代表取締役を選任する取締役会議事録には、出席取締役および監査役全員が記名押印し、この際の印鑑は個人の実印である必要がある旨が記載されていました。
取締役会議事録の印鑑については、経験的に三文判も多い気がしたので、少し調べてみました。
結論からすれば、取締役会議事録の押印に使用する印鑑は、会社法上は特に制限はなく三文判でも構わないが、登記手続上の理由による例外があるということがわかりました。
まず、会社法の規定を確認しておくと、390条3項で「取締役会の議事については、法務省令で定めるところにより、議事録を作成し、議事録が書面をもって作成されているときは、出席した取締役及び監査役は、これに署名し、又は記名押印しなければならない。」とされているだけで、特に印鑑の種類がどうこうという定めはありません。
一方で登記上の理由で実印の押印が必要となりうるケースの一つが代表取締役の選任決議をおこなった際の取締役会議事録です。
冒頭のケースは、前提として代表取締役が亡くなった場合の手続きということだったので、代表取締役の選任決議に前任の代表取締役が出席していないというケースでしたが、実際には前任の代表取締役が出席しているかどうかによって取扱いが異なります。
1.前任の代表取締役が出席していない場合
この場合は、出席取締役および監査役全員が実印を押印し、代表取締役の登記の際には全員の印鑑証明を添付する必要があります(商業登記規則第61条4項本文)。
2.前任の代表取締役が平取締役として取締役会に出席している場合
この場合は、前任の代表取締役の記名押印に用いる印鑑を登記してある代表印とすれば、他の取締役および監査役は三文判でも構いません(商業登記規則第61条4項ただし書)。
「会社議事録の作り方(森・濱田法律事務所編 松井秀樹 著)」では、代表取締役の選任決議の取締役会議事録についてこのような取り扱いが求められているのは「代表取締役・代表執行役の交代は、いわば「政権交代」であるから、それが間違いなく行われたことを担保するため、出席取締役出席監査役の実印又は変更前からの代表取締役・代表執行役の届出印の押印を求めているのである」と説明されていました。
ちなみに、新たに代表取締役に就任する取締役については、代表印の登記をし直さなければならないので、いずれにしても印鑑証明が必要となりますが、自分が選任された取締役会に出席していたときに押印する印鑑を実印とすべきかという点も気になりますが、上記の条文からすると実印でなくても構わないと考えられます。
ただし、代表印を変更するのに個人の印鑑証明は必要となります。
登記上の理由で取締役会議事録に実印の押印が求められるもう一つのケースが利益相反取引(会社法365条1項、356条1項)に該当する不動産取引の登記を申請する場合です。
不動産の権利に関する登記を申請する場合、「登記原因について第三者の許可、同意又は承認を要するときは、当該第三者が許可し、同意し又は承認したことを証する情報」を申請情報とあわせて登記所に提供しなければならないとされており、利益相反取引における取締役会議事録がこれに該当します。
そしてこの議事録には、代表取締役が登記されている代表印を押印するか、出席取締役・監査役が実印を押印し印鑑証明を添付するかのいずれかが必要となります。
結局のところ、取締役会議事録の代表取締役の印鑑を届出印にしておけばほとんど問題となることはないということになりそうです。