「退職給付に関する会計基準(企業会計基準第26号)」の公表(その2)
前回につづき2012年5月17日に公表された「退職給付に関する会計基準」について、従来の基準からの改正点を確認します。
一番大きな改正点は前回述べた、従来の未認識項目の負債計上だと思いますが、それ以外の部分について確認します。
1.退職給付債務の計算方法に関する改定
従来は、退職給付債務の計算方法については従来、期間定額基準が原則的な方法とされていましたが、「退職給付に関する会計基準」では期間定額基準と給付算定式基準の選択適用という形になっています(基準第19項)。
選択適用ということで、どちらが原則ということはありませんが、国際会計基準では給付算定式基準が採用されていることから、「給付算定式基準」を選択する会社も相当数出てくるのではなかいと思います。
期間定額基準とか給付算定式基準とかいわれても、退職給付債務(ひいては勤務費用)の計算方法で、期間定額基準は将来の見込み額を均等に各期に割り振って計算するというくらいにしか理解していませんので、「給付算定式基準」について簡単に確認しました。
「給付算定式基準」は、従来「支給倍率基準」と呼ばれていたものをイメージすればよいようです。従来は、支給倍率基準は、給倍率の増加が各期の労働の対価を合理的に反映しているとはいえない場合が多いため、原則としては適用不可とされていました。
ところが、今回の基準では、基準第62項で述べられているように「勤続年数の増加に応じた労働サービスの向上を踏まえれば、毎期の費用を定額とする期間定額基準よりも、給付算定式に従って費用が増加するという取扱いの方が実態をより表す」ともいえる点や、「勤務をしても給付が増加されない状況(定年直前に給付額が頭打ちになる場合や、将来給付すべての減額の場合など)でも費用を認識する場合がある点で期間定額基準は妥当でない」という考え方や、「給付算定式に従う給付が著しく後加重である場合など、勤務期間を基礎とする費用配分が適当な状況があるとしても、すべての勤務期間について配分する必要はない」という考え方があることなどから、「給付算定式基準」も認められることになりました。
退職給付制度が「給付算定式に従う給付が著しく後加重である場合」である場合には、期間定額基準を選択するか、給付算定式基準を選択するかで計算される退職給付債務の金額がそれなりに異なってくるのではないかと思いますが、退職給付制度が「給付算定式に従う給付が著しく後加重である場合」は期間定額基準の選択が認められないということにはなっていません。
なお、基準第19項では「いったん採用した方法は、原則として、継続して適用しなければならない」とされていますが、第38項において「第35 項に従って本会計基準を適用するにあたっては、その適用前に第19 項(1)に定める期間定額基準を採用していた場合であっても、適用初年度の期首において、第19項(2)に定める給付算定式基準を選択することができる。」とされています。
つまり、この新基準適用開始時であれば、「給付算定式基準」に変更することが認められています。なお、第37項において、新基準を適用するにあたり、過去の期間の財務諸表に対しては遡及修正しないとされています。
2.表示科目の変更
従来は「退職給付引当金」という科目で表示されていましたが、新基準では、積立状況を示す額が負債となる場合は「退職給付に係る負債」等の適当な科目をもって固定資産に計上することとされています(基準第27項)。
なお、資産サイドになる場合は「退職給付に係る資産」等の適当な科目をもって固定資産に計上するとされています。
というわけで、「引当金」ではなくなりましたので、重要な引当金の計上基準としての記載等、引当金ゆえに記載が求められていた部分の注記は不要になるものと考えられます。
決まってしまったものは仕方がないですが、個人的には、助詞がついた表示科目は呼びにくいのでやめてもらいたいと思います。
3.注記事項の拡充
新基準第30項では、以下の項目を注記することが要求されています。
(1) 退職給付の会計処理基準に関する事項
(2)企業の採用する退職給付制度の概要
(3)退職給付債務の期首残高と期末残高の調整表
(4)年金資産の期首残高と期末残高の調整表
(5)退職給付債務及び年金資産と貸借対照表に計上された退職給付に係る負債及び資産の調整表
(6)退職給付に関連する損益
(7)その他の包括利益に計上された数理計算上の差異及び過去勤務費用の内訳
(8)貸借対照表のその他の包括利益累計額に計上された未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用の内訳
(9)年金資産に関する事項(年金資産の主な内訳を含む。)
(10)数理計算上の計算基礎に関する事項
(11)その他の退職給付に関する事項
退職給付債務、年金資産ともに、期首から期末までの調整表の開示が追加されています。
さらに(9)の年金資産に関する事項については、適用指針の第59項において以下の内容を開示することが要求されています。
①年金資産の主な内訳として、株式、債券などの種類ごとの割合又は金額
②長期期待運用収益率の設定方法に関する記載(年金資産の主要な種類との関連)
開示の手間が増えることは間違いなさそうです。
4.割引率
割引率については、従来、見込支払日までの平均期間が原則とされていましたが、改正後の適用指針24項では、「退職給付支払ごとの支払見込期間を反映するものでなければならない。」とされています。
これだけだとよくわかりませんが、「当該割引率としては、例えば、退職給付の支払見込期間及び支払見込期間ごとの金額を反映した単一の加重平均割引率を使用する方法や、退職給付の支払見込期間ごとに設定された複数の割引率を使用する方法が含まれる。」とされています。
従来は、「実務上は従業員の平均残存勤務期間に近似した年数とすることもできる」とされていましたが、この規定はなくなっているので割引率の決定に手間がかかりそうです。
5.その他
以上のほか、予想昇給率について従来は「確実に見込まれる」昇給等が含まれるとされていたのに対して、新基準では「予想される昇給等が含まれる」となっているというような点がありますが、実務上はほとんど影響はないのではないかと思います。
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