2012年中国経済は減速する?
GDPを基準とした場合、世界第2位の経済大国となった中国の将来については世界が注目しているところだと思いますが、将来の見通しについては色々な見方があるようです。
中国の動向は日本にも大きく影響するので、私も中国について少し学ぼうといくつか書籍を購入してみました。
最初は中国南京市生まれの柯 隆氏(富士通総研研究所主席研究員)の「チャイナクライシスへの警鐘-2012年中国経済は減速する」という書籍を読んでみました。表題からも明らかなように、柯氏は中国経済が間もなく減速する可能性があると主張しています。
柯氏によれば、中国には本来早急に取り組まなければならない課題がたくさんあるが、胡 錦濤総書記と温 家宝首相は2012年に次の総書記・首相と交代するため、任期が間もなく終わる両名が大きな改革には着手しないこと、および新政権が完全に権力を掌握するのには3年位かかることから問題が表面化する可能性あるというのです。
新政権が権力を掌握するのに3年かかるというような感覚は中国人である柯氏に言われると、説得力があります。最近の日本で3年も続いた政権は・・・。
私なりに問題点を要約すると、
①不効率な国有企業の多さ
②食糧不足が生じる可能性
③水不足
④天然資源の不足
⑤ 不良債権問題
⑥高い失業率
⑦高齢化社会の到来
まず①の国有企業についてです。中国では国有企業が非常に多く、特に国有銀行は預金全体の6割を占め、上場企業の約7割が国有企業であるとしています。国有企業の問題点は、民間企業に比べて非効率であることが多いことですが、政府の入札にあってはまず国有企業以外は落札できないそうです。
従来、高い貯蓄率を背景に(=消費を抑制して)投資を増加させてきたため、生産過剰になりそれを輸出に回していたが、リーマンショックにより輸出先が不調になると生産量を消化できなくなり、そのため内需の拡大が急務となるが、内需拡大の方法がまだ見つかっていないとしています。
中国経済の継続的成長を予想する評論家等は、基本的に「内需拡大」を前提にしていると考えられます。すなわち内陸部に向けて旺盛な需要が創造されていくため需要不足が生じるというようなことはないということです。
確かに、テレビ、冷蔵庫、洗濯機を欲し、さらに自動車やクーラーを欲した日本の戦後の成長から連想すると豊かになるにつれて需要は自然に増加していくようにも思えます。
しかしながら、柯氏は中国が共産党の一党独裁であることから日本のような需要増が生じるとは考えていないようです。つまり、一党独裁であるがゆえに、中国の社会は影響力あるもの(裕福なもの)にますます有利な社会になっていき国民全体の需要増加にはつながらないというのです。
次に②の食糧不足の懸念です。工場で働いた方が収入に恵まれるため、工業化が進むとともに農民が農作物を作ろうとしなくなっているそうです。また、工業化の進展は農地を取り上げて行われるため農地がどんどん減っているため増加する食糧需要に供給が追いつかないという事態が生じうるというのです。
中国人は現在穀物を主食としているそうですが、飼料に穀物が必要牛肉や豚肉を食べるようになると、そもそも穀物の需要が増加する上、穀物価格や牛肉・豚肉の価格を高騰させる要因ともなります。
また国土の砂漠化も問題で、現在国土の18%が砂漠といわれているそうです。
さらに私は全く知りませんでしたが、③の水資源の不足です。どれくらい不足しているかというと「揚子江よりも北に位置している都市はすべて水不足に悩んでいると言ってもよい。」という位のようです。水がなければ、人は生きていけませんから、人口に対して水が不足したとしたら経済成長どころではありません。
このため、中国人の富裕層のなかには水源を有する日本の森林を買っている人もいるとのことです。
北京の水は地下水によるもので、「地下水の水位が、この10年で平均30メートル下がった。このまま地下水をくみ上げ続けていくと、どれだけ保守的に見積もったとしても、あと30年もすると完全になくなってしまうと言われている」というのは驚きです。
これが本当だとすると遷都が必要となります。
④の天然資源不足ですが、絶対量としては豊富といえるものの、一人当たりで考えると資源不足国といえるというのです。特に石油は、主要油田はほとんど増産対応できず、伸び率もない一方で、需要はこれからますます増加し輸入に依存しなければならなくなると説明されています。
例えば、中国での自動車の普及台数(現在5000万台)が、日本並みの普及台数になると約7億5千万台に、米国並みになると10億台になるとのことです。ちなみに、現在世界全体の自動車保有台数が9億5千万台ですから、7億5千万台としても石油の消費量はものすごい量になることは明らかです。
そのため、エネルギーについては原子力発電に頼らざるを得ないということになりますが、安全保障上の理由で、技術供与を行っているのはロシアとフランスのみとのことです。ここでも共産党一党独裁というのがネックとなっています。
安全保障の問題はあると思いますが、チェルノブイリのようなことがあると地球環境に悪影響を及ぼすと思いますので、個人的には日本も含めなんとか対応できないものかと考えてしまいます。
⑤の不良債権問題は、中国銀行の不良債権比率は徐々に低下傾向をたどっているものの、実際には深刻な不良債権問題を抱えているそうです。ただし、中国政府が政策的に貸出金利を高く設定していることによって銀行も引当を積んでいることからこの状況が続くようであれば表面化しない可能性もあるとしています。
ただし、一方で融資を受けた国有企業が、財務公司というノンバンクを利用して、生産関連への投資を行うよりも財テクに走っている状況があり問題が噴出する可能性があるとしています。
⑥の失業率については、2010年6月時点で公表値は4.3%であるが、この数値は日本でいうところのハローワークのようなところに登録されたデータに基づいて算出されているが、この登録が面倒であること、レイオフされている状態は失業にカウントされないことなどから実態よりも低い値となっているとしている。柯氏によれば専門家による失業率の平均値は9.6%だったそうである。
⑦の高齢化の進展については、高齢化社会というのは全人口に占める65歳以上の人口比率が7%を超えた社会のこと(国連統計の定義)であるが、中国はこの状態に2005年に突入している。
これは、有名な「一人っ子政策」を原因の一つとするが、あわせて「晩婚晩育」という制度も要因の一つとなっているそうです。
「晩婚晩育」というのは、文字通り結婚・出産を遅らせるための制度とのことです。法律上は20歳から結婚できるそうですが、結婚するためには所属している会社等から独身である証明書を発行してもらわなければならず、この証明書が実際には25歳くらいにならないと受けられないという仕組みになっているそうです。
これらの制度の弊害は、高齢化のみならず人口の男女比率が崩れつつあることにもあるとしています。これは、儒教社会の中国では家督や苗字を引き継いでくれることもあり、男の子の方が何かと重宝がられる傾向が根強いことが関係しているとしています。すなわち、表向きは産婦人科医が生まれてくる子が男の子か女の子を教えてはいけないことになっているが、実際は教えてしまう産婦人科医が多いので人工中絶が増えているというのです。
20歳以下の若年層では、男性のほうが女性よりも3000万人多い状態となっているそうですが、貧困そうで結婚相手も見つからないような状況下に置かれた人々が暴動等を引き起こすこともありうるとしています。
全く知りませんでしたが、中国では年間で8万件の暴動が起きているということも述べられていました。
結局のところ、順調に見える中国経済も潜在的に大きなリスク要因は結構存在しており、経済成長が鈍化すると問題が一気に噴出する可能性があるということは意識しておく必要があると感じました。
日々成長。