子会社の清算に伴う債権放棄・現物分配・株式消却損
会計・監査ジャーナルの2012年8月号の租税相談Q&Aにおいて「子会社の清算に伴う、債権放棄・現物分配・株式消却損」が取り上げられていまいた。
前提の状況および質問を要約すると以下のとおりです。
(前提)
・A社は、資本金4000万円の会社B社を設立した。
・B社が1億円超の債務超過に陥っており、業績が好転する見込みもないので、B社を解散し清算することととした。
・B社設立に際して、A社の出資比率は40%で、残りは同業のX社、Y社、Z社に各20%出資してもらった。
・その際、X社、Y社、Z社には一切迷惑をかけないという約束をし、覚書を取り交わしている。
・そのため、B社の清算前にX社、Y社、Z社のB社株式を合計2400万円(各社800万円)で取得した。
・また、A社がB社に対して貸し付けていた8000万円の貸付金について、全額債権放棄するとともに、今後生じる清算費用等負担することとした。
・B社には青色繰越欠損金が9500万円存在する。繰越欠損金は1億5000万円。
・B社の資産は土地のみであり、帳簿価額は1000万円、時価1500万円である。
(質問内容)
(1)B社は債務超過であるためB社の株式の価値はないといわざるを得ないが、A社がX社等から出資相当額でB社株式を取得することについて、A社はX社等に対する寄附金を支出したものとされるか。
(2)A社はB社に対して有する債権8000万円を債権放棄することについては、貸倒損失として認められ、さらにA社が負担する清算費用等については、寄附金とはならず、いわゆる撤退損として単純損金としてみとめられるか。
(3)A社が8000万円を債権放棄するとB社の残余財産は土地のみとなることから、B社がA社に対して当該土地を現物分配することになる。この場合、現物分配は適格現物分配として認められるか
(4)適格現物分配として認められない場合には、A社とB社の課税関係はどのようになるか
(回答)
(1)について
A社がX社等から出資相当額でB社株式を取得することについては、寄附金とはならないと考えられる。なぜなら、X社等は、A社との間の「一切迷惑をかけない」という約束の下で出資に応じ、その際に取り交わした覚書によってこのことが明らかにされており、いわば株主間協定によってA社はその約束(出資額での買い取り)を履行せざるを得ないという状況にあるためである。
つまり、株式の時価をゼロと言わざるを得ないB社株式を当初出資価額で取得することについては、株主間協定に基づく通常の取引条件にしたがったものであるから、寄附金の問題は生じないと考えられるというものです。
(2)について
(2)については、A社がB社に対して行う代物弁済後の債権放棄は貸倒損失で、清算費用等の負担はいわゆる撤退損であり、いずれも損金として認められると考えられるとされています。
ただし、上記のケースでは、土地により債権の一部(1500万円)の回収を図ることができるので、この分を除いた6500万円について回収不能と認められるため貸倒損失として損金算入が認められます(法人税基本通達9-6-2)。
また、A社がB社の清算費用等を負担することについて、B社には返済能力がないことが明らかな状況下での負担なので、寄附金ではないかという疑問が生じるものの、A社は事実上の親会社としての責任があり、親会社の方針としてB社を清算させること、他に負担すべきものがいないことからすると、法人税法基本通達9-4-1(子会社等を整理する場合の損失負担等)の取扱いにより、いわゆる撤退損として損金算入することが認められると考えられるとされています。
(3)について
(3)については、B社では、債務の弁済として当該土地を提供することになり、その結果、残余財産は存在しないことになるから、現物分配を行うことはできないとされています
(3)の論点はわかりにくいですが、法人税法上、適格現物分配の場合には、現物分配法人及び被現物分配法人について現物の移転による課税関係は生じないものとされているので(法人税法62条の5第3項)、債務超過の清算会社が資産を有する場合に、現物分配が先か、現物による代物弁済が先かで課税関係が異なると考えらえるので、どう考えるべきかというのが問題点です。
この点については、会社法上、清算株式会社は、まず、その債務を弁済した後でなければその財産を株主に分配することができないとされています(会社法502条)。したがって、上記のケースでは、弁済にあてることのできる土地は債務の弁済にあてられることとなるため、株主としてのA社に現物が分配されるということはないというのが(3)の回答の理由となっています。
(4)について
①A社(株主側)の課税関係
<B社の青色繰越欠損金の引継ぎの可否>
今回のケースでは、B社の青色繰越欠損金の引継ぎは認められません。完全支配関係がある他の内国法人の残余財産が確定した場合、原則として、残余財産の確定の被の翌日の属する事業年度開始の日の5年前の日から継続して支配関係がある場合に限って青色繰越欠損金の引継ぎが認められますが(法人税法57条3項、法人税法施行令112条4項)、今回のケースではこの要件を満たしていないためです。
<B社株式に対する清算損の計上の可否>
ここが要注意です。結論からすれば、今回のケースではB社株式の清算損を損金算入することはできません。
これは、法人税法上、当該法人と他の内国法人が完全支配関係にある場合には、譲渡対価は譲渡減価(株式の帳簿価額)に相当する金額ととするものとされているため(法人税法61条の2第16項)、子会社株式清算損(株式消却損)は税務上生じないことになるためです。
では、どうなるかですが、子会社株式清算損は当該内国法人(A社)の資本金等の額にチャージされ、資本金等の額から減算されることになります。
これは、かなり痛い処理となります。仮に、B社の株主構成を変えないまま清算し、当初出資額と残余財産の配分額との差額をA社が補填するという処理であったとすれば、B社は実質的な子会社ではあるものの税法上の完全支配子会社ではありませんので、上記のような制約を受けることはありません。
したがって、トータルでの支出額に差はないにもかかわらず、完全支配子会社にしてしまった場合には、清算損が損金算入できないのに対して、そのまま処理していれば清算損を損金算入することが可能となるという違いが生じ、手順を間違うと税務上は著しい不利益を受ける可能性があるということになります。
②B社の課税関係
最後にB社の課税関係も簡単に確認しておきます。B社は、A社からの貸付金8000万円のうち1500万円を土地で弁済し、残りの6500万円の債務免除を受けることになります。また、簿価1000万円の土地を時価1500万円で譲渡したことになるので、500万円の譲渡益が計上されます。
債務免除益6500万円+土地譲渡益500万円=7000万円の益が発生するものの、青色繰越欠損金が9500万円存在するため、結局のところ青色繰越欠損金を消化して課税所得は生じないことになります。
なお、内国法人が平成22年10月1日以後解散する場合には、各事業年度においては通常の所得課税が行われるが、解散時おいて残余財産がないと見込まれる場合には、いわゆる期限切れ欠損金を含めて損金算入されるという取扱いになっています(法人税法59条3項、法人税法施行令118条)。
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