「国税記者 実録マルサの世界」-田中周紀著
以前、”「申告漏れ」「所得隠し」「脱税」の違いは?”というエントリで紹介した「国税記者 実録マルサの世界」ですが、途中に他の本の割り込みがあったりしてなかなか読み進めませんでしたが、ようやく読み終わりました。仕事に直接関係ない本は後回しになりがちです。
さて、この本で紹介されている脱税の事例は、それなりに面白いので興味がある方は読んで頂くとして、関係者として登場する人物等に関連して面白いことが書いてあったので二つ紹介します。
まず、一つ目が宗教法人を使った脱税に関連する話(第5章)の中で、『東京三菱銀行を頼った「地上げのプロ」』として、脱税の容疑者(逮捕されているものの公判は継続中とのこと)に地上げの資金を融資したのが東京三菱銀行(現三菱東京UFJ銀行)であったと述べられています。
筆者曰く、この容疑者は裏社会と関係が深いとのことであり、そのような容疑者とメガバンクが関係を持っていることが不思議としつつ、三菱銀行(当時)の別件の融資の返済に暴力団経由で介入しており、その時に三菱とのつながりができたと思うという関係者の証言を紹介しています。
約10年前の地上げにであり、当時は今ほど「反社」にうるさくなかったということかもしれませんが(個人的にはそんなことはないはずだと思いますが・・・)、銀行が容疑者がどのような人物であるかを把握していなかったということはないと思います。
こんなところで名前が出てしまうとは、三菱東京UFJ銀行も思っていなかったのではないでしょうか。
二つ目は、前経団連会長の御手洗冨士夫氏についてです。御手洗氏についても脱税の案件の関係登場人物
として、色々と記載されています。
例えば、「御手洗は社長就任後、東京都新宿区にあったキヤノン本社(当時)の内装工事を「日建」一社に発注するなど、公私混同を疑われるような行動をとるようになる」と述べられています。この「日建」というのが、同書で紹介されている脱税の首謀者の会社で、同郷の御手洗氏に上手く取り入ってキヤノンの関連工事の「仕切り屋」として暗躍した人物とされています。
また、御手洗氏は役員や部長の前でこの首謀者ほど気が利くやつはいないと言って憚らなかったとされており、キヤノン社内では「まるで私設秘書のようだ」と顰蹙を買っていたとされています。
さらに、キヤノン関連の工事は戦前から大林組が一社だけで受注してきたが、御手洗氏が社長になってからは清水建設なども受注できるようになり、これはこの脱税の首謀者が「俺にコンサルティング料をよこせば仕事をまわしてやる」と持ちかけた結果とされています。キヤノン関連の工事では、交渉の席にこの首謀者が必ず出てきて、まるで役員のようであったともされています。
最終的にこのような状況が、鹿島建設を巻き込んだ脱税事件に発展していくわけですが、記載されている内容を読んでいる限りにおいて御手洗氏にも相当責任があるように感じられる内容となっています。御手洗氏は脱税に関与していなかったというのが救いではありますが、それにしてもキヤノンあるいは経団連会長というイメージからは程遠い内容で、イメージと内実はやっぱり相当異なるということなんだと改めて感じました。
日々成長