退職勧奨実施時の具体的対応とは(その1)?
監査法人で実施されたリストラにおいても、度が過ぎた退職勧奨で裁判沙汰になったというような噂も耳にします。ビジネスガイドの2012年10月号で退職勧奨について特集が組まれていたので、参考になりそうな点を紹介します。
1.退職勧奨をすることの妥当性は?
退職勧奨の定義は、「使用者から労働者に対する、①雇用契約の合意解約の申入れ、あるいは、②雇用契約の合意解約の申入れの誘因のことをいう」とされています。どちらに該当するかはケースバイケースとしつつも、多くの場合は「労働者による退職届の提出が雇用契約の合意解約の申入れ」と評価されるので、上記②に該当するとされています。
「雇用契約の合意解約の申入れの誘因」といわれると、なんだかよくわかりませんが、要は、会社を辞めませんか?という誘いだと考えればよさそうです。
そして、退職勧奨自体が整理解雇の4要件を満たさないので違法であるという主張がされることがあるそうですが、これは「契約自由の原則」からして誤りであるとされています。ただし「自由な意思決定を妨げる」ような退職勧奨の場合は、不法行為として「損賠賠償のリスク、合意解約が無効あるいは取り消しとされるリスクを生じさせること」になると述べられています。
単に「合意解約のリスク」とありますが、合意解約が無効になった場合、その従業員は会社を辞めていないことになりますので、会社側としては納得できないかもしれませんが、出社していなかった期間についても給料を支払わなければならないことになる可能性が高くなります。これは解雇が無効とされた場合と同様です。
2.退職勧奨が不法行為となるのはどのようなケースか?
前述のとおり、自由な意思決定を妨げるような退職勧奨は不法行為(民法709条)として、損害賠償責任が認められる可能性があります。具体的には、「退職勧奨の回数、説得のための手段・方法には社会通念上相当であることが求められ、その態様が強制的であったりした場合」に不法行為として損賠賠償責任が認められる可能性があります。
ビジネスガイドの特集では、関連する判例として、①下関商業高校事件(最-小判昭55.7.10労働判例345号20頁)、②日本航空事件(東京地判平23.10.31労経速2130号3頁)、③日本アイ・ビー・エム事件(東京地判平23.12.28労経速2133号3頁)が紹介されていました。
各事件のポイントと考えられる点をまとめると以下のようになっています。
①の下関商業高校事件では、1回目の退職勧奨以来一貫して退職勧奨に応じないことを表明していたにもかかわらず、退職勧奨が10回程度に及んだこと、その時間も短いもので20分、長いもので1時間30分に及んでいたこと等から、退職勧奨は違法であるとされたとのことです。
なお、この下関商業高校事件の第一審判決では「退職勧奨のために出頭することは許されない」「かかる職務命令を発すること自体、職務関係を利用した不当な退職勧奨として違法性を帯びる」とされたそうですが、控訴審判決・上告審判決においてはこの部分は削除されたと解説されています。
つまり、退職勧奨の面談そのものの開催自体は業務命令として従業員に命ずることができるという点は覚えておいて損はないと思います。
②の日本航空事件は、有期雇用契約の客室乗務員の雇止めと退職勧奨の適法性が争われた事件ですが、結論としては雇止めは有効、退職勧奨は違法として、20万円の損害賠償が認められています。
特集記事には上長と原告の面談におけるやりとり等として内容が掲載されいますが、その内容からすると、損害賠償が20万円というのは安すぎるのではないかと思えます。行き過ぎた退職勧奨によって精神疾患を患ったというような場合は、また違ってくるのかもしれませんが、労働者側からすると損害賠償が認められてもそれほど多くの金額を請求できるわけではなさそうです。だとすれば、やはり退職勧奨の無効を争うということになるのではないかと思われます。
③の日本アイ・ビー・エム事件は、リーマンショック後に「大規模な任意退職者募集のための特別支援プログラムを立案・実施し、業績の低い従業員を応募に勧奨する対象者とし、勧奨したところ、応募への勧奨の対象となった原告4名が、会社の行った退職勧奨は強要であり精神的苦痛を被ったとして不法行為による損害賠償を求めた事件」です。
この事件では、最終的に損賠賠償請求は認められませんでしたが、判決において退職勧奨の対象となった労働者がこれに消極的な意思を表示した場合に使用者に認められる対応が三つの根拠とともに判示されています。分量が多いため内容は割愛しますが、参考になるので興味がある方はビジネスガイド2012年10月号原文を御確認下さい。
では、次に退職勧奨を行う際の注意点についてですが、これについては次回とします。
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