グループ法人税と税効果(寄附金)
グループ法人税の導入に伴う税効果について、2010年9月改正後の会計制度委員会報告第10号「個別財務諸表における税効果会計に関する実務指針」では、
①完全支配関係(法人税法第2条12の7の6号参照)にある国内会社間の資産の移転による譲渡損の繰延べに係る税務上の調整資産/負債
②完全支配関係にある国内会社間の寄附金受領法人/寄付金支出法人の株主における子会社株式の税務上の簿価修正
①については、「グループ法人税と税効果(譲渡損益の繰延)」で述べたので、今回は②の寄附金について確認することにします。
1.個別財務諸表
まず、簡単に税務上の取り扱いを確認しておくと、平成22年10月1日以降の法人による完全支配関係を有する内国法人間の寄附については、寄附を行った法人においては全額損金不算入となり、寄附を受けた法人においては全額益金不算入となります(法人税法第25条の2、第37条第2項)。
このように、課税関係を生じることなく一定のグループ内で価値移転が行えるようになりましたが、一方で寄附金を使用して株式譲渡損益を操作できなくするため、寄附金支出法人の株式を有する法人において、その株式の帳簿価額を寄附金の損金算入額相当(数社で完全支配関係を形成している場合は各持分割合を乗じた額)だけ減額するとともに、寄附金受領法人の株式を有する株主において、その株式の帳簿価額を寄附金の益金不算入相当額(数社で完全支配関係を形成している場合は各持分割合を乗じた額)だけ増加させる必要があります。
グループ内の寄附金により、上記のとおり税務上の株式の簿価が修正されることにより、子会社株式などの簿価が個別財務諸表(会計上)の簿価で差が生じることになます。
寄附金支出法人では、支出額が全額損金不算入(社外流出)となりますが、株式の価額において税務上の資産と会計上の資産に差が生じるため、一時差異として税効果の対象となるということです。
社外流出だから税効果は関係ないと考えてはいけないという点、うっかりするとわすれそうなので注意が必要です。
なお、この差異は、グループ外部に株式が売却された場合などに解消することになります。
簡単な例で、寄附金に対する個別財務諸表における税効果を確認します。
<前提>
・P社(親会社)、A社、B社(それぞれP社の100%子会社=完全支配関係にある)
・寄附前のP社におけるA社、B社の株式の帳簿価額(会計上、税務上に差異はない)を1,000とする。
・P社の実効税率は40%
・X1期にA社がB社に寄附300を行う
<P社における税効果>
なお、A社/B社においては、それぞれ支出額/受領額を社外流出として損金不算入あるいは益金不算入として処理するだけなので税効果の問題は生じません。
P社ではA社からB社に300寄附が行われたことにより、P社におけるA社株式の税務上の簿価を700(寄附金支出額だけ減額)。B社株式の税務上の簿価を1300(寄附金受領額だけ増額)に調整します。
会計上(個別財務諸表上)のP社におけるA社株式、B社株式はそれぞれ1000のままとなります。
結局のところ、P社で必要となる仕訳は、
①A社株式について
借方)法人税等調整額 120 貸方)繰延税金負債 120(←300×40%)
②B社株式について
借方)繰延税金資産 120 貸方)法人税等調整額 120
①はイメージとしては、税務上の簿価が会計上の簿価よりも低くなっているため、将来売却した時点で会計上の利益よりも税務上の利益(課税所得)の方が大きくなり税金も大きくなるので繰延税金負債を計上していると考えればよいと思います。
①および②から結局のところ「仕訳なし」でも実質的に影響はないともいえますが、繰延税金資産は回収可能性を検討する必要がある一方で、連結納税制度に係る取扱いを定めた実務対応報告のような特段の定めがないため売却予定にかかわらず繰延税金負債は原則として計上する必要があるという点で、繰延税金負債のみ計上が必要となるケースがありうるという点に注意が必要だと考えられます。
2.連結財務諸表
完全支配関係にある国内会社間の資産の移転に係る譲渡損益と異なり、「連結財務諸表における税効果会計に関する実務指針」ではこの点について特段述べられてはいません。
そこで、前述の例で考えるとP社で認識されている税効果を取り消すべきかどうかが問題となりますが、連結上も特にP社の個別の税効果を取り消す必要はないものと考えられます。
理由としては、
①寄附金による簿価調整以外(取得後剰余金や、のれんの償却)による差がないとすれば、個別財務諸表上の簿価=連結上の簿価であるので、連結上取り消すべき税効果はないものと考えられること。実際、譲渡損益の繰延のような取り消す旨の規定も存在しない。
②連結実務指針第53-2項では、企業集団内で投資が売却され譲渡損益が繰り延べられている場合の繰延税金資産/負債は、投資に係る一時差異とは性格が異なることを根拠に個別財務諸表で計上されている繰延税金資産/負債の消去は不要としている。同様に考えれば、グループ法人税制によりP社の個別財務諸表の税効果として調整されている投資(子会社株式)については、投資に係る一時差異とは性格が異なり、個別の計上額を生かしてよいものと考えられること。
結局のところ、個別財務諸表で認識されている税効果は、対象株式が外部に売却されるまで連結上も残るということだと思います。
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