借地権と資産除去債務計上の要否(その2)
前回に引き続き借地権と資産除去債務の関係について確認していきます。
3.普通借地権(借地借家法)
ここからは借地借家法(新法)に基づく借地権です。普通借地権(借地借家法3条)は、更新可能な借地権で、当初の契約期間は30年以上である必要があります。
更新後の期間は初回更新時は20年以上、2回目の更新時は10年以上(借地借家法4条)としなければなりません。
普通借地権の場合、建物がある場合に限られますが、借地権者が期間満了時に更新を要求したり、土地の使用を継続したりするときは契約が法定更新されることになっています(第5条)。
しかも、普通借地権の場合は建物の再築による契約期間の延長も認められています(借地借家法7条)。また、貸主が正当事由がある場合に契約更新を拒否することができ(借地借家法6条)、その場合に建物買取請求権が認められる(借地借家法13条)のは借地法と同様です。
このことからすると、借地借家法に基づく普通借地権の場合、借主が民法の一般原則に従って原状回復義務を履行しなければならないケースは基本的に考える必要がないと考えられますので資産除去債務の計上は不要と考えられます。
なお、普通借地権の場合、契約期間中に建物が滅失した場合、借地権者は、地上権の放棄又は土地の賃貸借の解約の申入れをすることができるとされています(借地借家法7条)が、この場合は既に滅失済みですので、重要な原状回復費が発生することはないと判断してよいと考えられます。
4.一般定期借地権(借地借家法)
一般定期借地権は借地借家法22条で定められている借地権で、存続期間を五十年以上とするかわりに契約の更新や建物買取請求権を排除する特約をすることができるとされています。
なお、定期借地権の特約については「公正証書による等書面によってしなければならない。」とされていますので、仮に建物買取請求権が契約書で排除されていなければ、借主は建物買取請求権を有するということになります。
とはいえ、普通は建物買取請求権が排除されていることから、借主は契約期間満了時に建物等を除去して更地で返却することが原則となりますので、借主は原則として原状回復義務を負っているということになります。
したがって、定期借地権の場合は資産除去債務の対象として検討が必要だと考えられます。
しかしながら一般定期借地権の場合、定期借地権の契約期間50年に対して、建物の耐用年数が45年というようなことも考えられ、この場合どうなるのかが問題となります。
実際問題として、耐用年数以上に使用する可能性はありますが、耐用年数を45年で減価償却を行うということは、45年後には建物が使用できなくなる(建替え等が必要)という前提に立っていることになります。
そうであるとすると、耐用年数経過による建物の取り壊しは契約に基づいた義務の履行ではなく、自発的な建物の除去であると考えることができます。このように考えると、定期借地権の設定期間>建物の耐用年数であれば、定義上、資産除去債務はないとも考えられます。
5.事業用定期借地権(借地借家法)
事業用定期借地権は平成20年1月1日以降利用可能となった借地権で、借地借家法23条で定められている定期借地権です。
事業用定期借地権も一般定期借地権同様、特約によって契約の更新や建物の買取請求権を排除することが可能です。しかも契約期間が30年以上50年未満とされていますので、事業用定期借地権の上に建物等を有している場合には、まさに資産除去債務を負っていると考えられます。
事業用定期借地権の場合には、借地権の契約期間等に基づいて原則として資産除去債務を計上する必要があると考えられます。
6.事業用借地権(借地借家法)
事業用借地権(借地借家法23条2項)は、契約の更新及び建物の築造による存続期間の延長がなく、建物買取請求権の規定および更新後の建物の再築の許可に関する規定のない借地権で、10年以上30年未満の期間(平成20年1月1日以前に設定された場合は10年以上20年未満)で設定される借地権です。
一見すると、期間以外に事業用定期借地権と何が違うのかが理解しにくいですが、事業用定期借地権の場合は、特約で契約の更新や建物買取請求権を排除することができるのという位置づけであるのに対して、事業用借地権は、そもそも存続期間の延長や建物買取請求権の規定が適用除外とされている点で異なります。
したがって、事業用借地権の場合は資産除去債務の計上を検討する必要がありますが、実務上問題となるとすれば、事業用借地権が期間満了後に再度期間10年で更新されているようなケースです。
このようなケースでは、資産除去債務の計上を検討時の契約期間をベースに行うのが簡便ですが、既に複数回契約更新実績があるようなケースでは、更新後の期間を見込むことも可能だと考えられます。
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