出向者の出向前の有給休暇残日数はどうなるか?
従業員を子会社や関連会社、あるいは取引先などに出向させることがあります。そのような場合に、出向元で未消化であった有給休暇の残日数は出向後どうなってしまうのでしょうか。
これに関する原則的な考え方は、出向が転籍出向なのか在籍出向なのかによって異なります。
1.転籍出向の場合
転籍出向の場合、出向元と出向者の雇用関係は完全に終了することになります。転籍出向では「出向」という用語が用いられているものの、いわば会社をやめて転職したという状態に類似しています。
つまり、転職した場合に前職の会社で何日有給休暇が残っていようとも、転職先で前職の有給を使用できないのと同様に、転籍出向の場合は原則として出向先で出向前の有給休暇を使用することはできません。
「原則として」というのは、転職時の労働条件が個別の交渉によるのと同様、転籍先と労働者の間で別の取り決めがあればそれに従うことになるので、転籍前の有給休暇を引き継げるケースもあると考えられます。
2.在籍出向の場合
在籍出向の場合は、たとえ出向者が出向先のために労働の提供を行っていたとしても、出向者は出向元と出向先の両方と間で労働契約が成立します。つまり、雇用関係が二重になります。
そして、法定の有給休暇の日数は、労働基準法39条1項・2項の規定により定められています。そのため、出向前後の期間がこれらの条文いうところの「継続勤務」に該当するか否かが問題となります。
この継続勤務の意義については、昭和63年3月14日基発150号において以下のように述べられています。
継続勤務とは、労働契約の存続期間、すなわち在籍期間をいう。
継続勤務か否かについては、勤務の実態に即し実質的に判断すべきものであり、次に掲げるような場合を含むこと。この場合、実質的に労働関係が継続している限り勤務年数を通算する。イ 定年退職による退職者を引き続き嘱託等として再採用している場合(退職手当規程に基づき、所定の退職手当を支給した場合を含む。)。ただし、退職と再採用との間に相当期間が存し、客観的に労働関係が断続していると認められる場合はこの限りでないロ 法第二十一条各号に該当する者でも、その実態より見て引き続き使用されていると認められる場合ハ 臨時工が一定月ごとに雇用契約を更新され、六箇月以上に及んでいる場合であって、その実態より見て引き続き使用されていると認められる場合ニ 在籍型の出向をした場合ホ 休職とされていた者が復職した場合へ 臨時工、パート等を正規職員に切替えた場合ト 会社が解散し、従業員の待遇等を含め権利義務関係が新会社に包括承継された場合チ 全員を解雇し、所定の退職金を支給し、その後改めて一部を再採用したが、事業の実体は人員を縮小しただけで、従前とほとんど変わらず事業を継続している場合
上記から「在籍出向」の場合は、原則として継続勤務していものと取り扱われるという事になります。したがって、出向前に付与された有給休暇の残日数については、労基法39条4項の手続きで当然に消化できるということになります。なお、次年度の有給休暇の取得の判定は出向前後における1年間の出勤率により判定することになります。
なお、出向元で法定有給休暇を上回る有給休暇が付与されているケースにおいては、「取得日数は原則として出向元を基準としますが、出向先において消化できる所定有給休暇日数は当事者の合意によるところとなり、明確な合意がない場合には、休暇に関しては出向先の就業規則が適用されますので、出向先の所定有給休暇の範囲となります。」(「配転・出向・降格の法律実務」(中央経済社 石嵜信憲編著))とされています。
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