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残業代ゼロよりも注目すべきはフレックスタイム制の見直しでは?

朝日新聞が4月2日に”「残業代ゼロ」一般社員も 産業競争力会議が提言へ”という記事を掲載したことによる影響が大きいようですが、この件についてかなり話題となっているようです。

朝日新聞の記事によれば、
①年収が1千万円以上など高収入の社員
②高収入でなくても労働組合との合意で認められた社員
を対象として制度を検討するそうです。

産業競争力会議の4月22日配賦資料2の「資料2-1」→「Ⅱ.個人の意欲と能力を最大限に活用するための新たな労働時間制度 」→「2. 新たな労働時間制度の創設 」が上記の報道に関連した内容となっています。

この資料では「業務遂行・健康管理を自律的に行おうとする個人を対象に、法令に基づく一定の要件を前提に、労働時間ベースではなく、成果ベースの労働管理を基本(労働時間と報酬のリンクを外す)」とされています。ただし、「職務内容(ジョブ・ディスクリプション)の明確化を前提要件 とする」とされています。

そして具体的には「労働時間上限要件型」と「高収入・ハイパフォーマー型」というものが提言されています。

労働時間上限要件型

「労働時間上限要件型」は「一定の労働時間上限、年休取得下限等の量的規制を労使合意」することを基本とし、「利用者に対する報酬は、労働時間とは峻別して、その職務内容や目標達成度等を反映して適切に行うもの」とするとされています。
そして、導入要件としては「当初は過半数組合のある企業に限定する」とされています。

したがって、この制度が上記②の制度に該当するようです。

この制度については、労働者が同意するよう圧力を受けて残業代がもらえなくなるだけという意見もあるようです。過半数労働組合があればそのようなことはないだろうという前提で過半数労働組合が存在することが条件となっていると考えられますので、結局のところ、労働組合の力次第ということでしょうか。

ただし、労働組合の組織率は2割弱ですから、そもそも使用者がこの制度を導入しようにも労働組合がないので利用できないというケースが大半だと考えられます。

また、「職務内容(ジョブ・ディスクリプション)の明確化が前提条件」なので「職務内容記述書」等を作成する必要があると考えられますし、「健康管理の厳格な実施」も合わせて提言されています。そのため、現状では長時間労働に加えて本人からの申し出があった場合に医師による面接指導が義務とされていますが、一定時間を超過した場合には医師の面接指導を義務付けるというような厳格化が予想されます。さらに、「強制休業日数を定めることで、年間労働時間の量的上限等については、国が一定の基準を示す」ともされているので、使用者にとって使いたいという制度となるのかは疑問です。

労働者にとっても、今まで仮に残業代をもらっていたのであればその収入をベースに新たな賃金が考慮されることになると考えられますし、「健康管理時間が守れない等の労使で合意した労働条件の総枠に対して不適合等の場合は、利用者当人を通常の労働時間管理等に戻すなど所要の見直しを講じる」とされていますのでそれほど影響はないとも考えられます。一方で労働者にとって、現時点でサービス残業が強いられている状況にあるとすると、新たな制度が導入されることで現状が合法化されてしまう可能性があるという問題は考えられます。

この点については「新制度を導入する企業は、労働基準監督署に届出を行うものとするほか、報告徴求、立入検査、改善命令、罰則等の履行確保の措置を法律に規定するものとする」とされていますので、問題があれば制度適用の取消+残業代の支払というような運用になると考えられ、サービス残業を労基署に相談して残業代を請求するというのとあまり変わらないのではないように思います。

高収入・ハイパフォーマー型

「高収入・ハイパフォーマー型」では、働き方としては「職務遂行手法や労働時間配分等は個人の裁量に委ね、柔軟な対応を可能」とし、報酬は成果・業績給のウエイトの高い報酬体系を適用し、仕事の達成度、成果に応じて報酬に反映するものです。使用者は労働者に対して期初に、職務内容(ジョブ・ディスクリプション)及びその達成目標を提示し、その達成度および報酬等を予め明確にすることが前提とされます。

この制度も労働組合がある会社が前提となっているのは「労働時間上限要件型」と同様ですが、「対象者の年収下限の要件を定める」とされており、ここでも出ましたという感じですが「例えば概ね1千万円以上」とされています。

この制度は正直あまり意味はないと考えられます。というのは、1千万円以上の収入がある労働者で残業代をもらっている労働者はほとんどいないと考えられるためです。そもそも年収1千万円以上の割合が少ないことに加え、通常は労基法上の管理監督者に該当するものとして残業代は支給されていないのが普通だと思います。

もちろん1千万円以上もらっているからといって労基法でいうところの管理監督者にはあたらないということもあり得ますが、通常は1千万円以上もらっている労働者が管理監督者でないならば誰が管理監督者なのかということになります(ワンマン社長以外は権限を持っていないので労基法上の管理監督者は社長以外はいませんということはあるのかもしれませんが・・・)。

また、労基法上の管理監督者といえども深夜業については割増賃金を支払う必要があるので、その部分の影響はないとはいいませんが、それほどインパクトはないと思います。

年収要件としてはとりあえず「1千万円」が挙げられていますが、実際のところは「800万円」位を狙っているのではないかという気がします。

こちらの方が注目すべきでは?

新聞報道によって上記の部分ばかりが注目されていますが、個人的には同資料で述べられている企画型裁量労働制、フレックスタイム制の拡充などの見直しというほうが気になります。

特に、「フレックスタイム制については、例えば、始業・終業時刻に加え、出勤日も労働者に委ねたり、1か月を超えた期間の清算期間を定めたりすることを可能とする等の見直しの検討を行う」というのは是非検討をすすめてもらいたいと考えます。

現状のフレックスタイム制では、清算期間は最長1ヶ月とされています。清算期間が1ヶ月であってもそれなりに効果はありますが、清算期間が3ヶ月とか6カ月になれば、より使い勝手のよい制度になると考えられます。例えば経理担当者は決算期に業務量が著しく増加し残業が増えることがありますが、仮に清算期間が3月であれば5月ないし6月の労働時間を減らすことによって使用者は賃金コストを抑えることができます。

一方、労働者の視点からすると、フレックスタイム制であってもコアタイムとして出社しなければならない時間帯が設けられていることが普通なので、現状の制度のままだと数時間は出社が必要であまり有難味があるとはいえません。しかし、清算期間が1ヶ月を超える場合には「コアタイム」の設定を禁止したうえで、清算期間経過時の割増率を通常の残業よりも高く法定すれば、暇な時期に休みをとりやすくなるというメリットがあるのではないかと考えらえます。

ただし、単に清算期間を1ヶ月とするよりも割増率が高く設定されたとしても清算期間を1ヶ月を超える期間に設定したほうが有利なためこちらを選択するという可能性(この可能性を考えると、割増率を高くするというよりも、一定時間数を超える場合は休日を与えることで清算を義務付けるということも必要かもしれません)や、有給の消化率が高い会社の従業員からすれば、忙しい時期の残業代が減るだけという可能性もあります。

いずれにしても働くときは働いて、余暇を楽めるというのがワークライフバランスの観点からは重要ではないかと思います。

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