非上場株式の評価損の損金算入要件と会計上の減損
T&A master No.555に”非上場株式の評価損で損金要件を満たさず”という記事が掲載されていました。
この記事で紹介されていた事案は、東証一部上場会社である納税者が、当初の申告で非上場株式の評価損を会計上特別損失に計上する一方で税務上加算していたものの、その後、当該評価損が税務上も損金算入要件を満たすとして減額更正を請求したが税務当局がこれを認めなかったため、国に対して国家賠償請求訴訟を提起したものの納税者が敗訴したというものです(平成26年4月25日 東京地裁判決)。
納税者の主張が退けられた理由としては、「会計指針では回復可能性が減損処理の除外事由として例外的な定めがされているため、会計上評価損を計上すべきとの判断がなされたからといって、回復可能性の判断がされたと直ちに認めることはでき」ず、「納税者が会計上の減損処理をした際に、回復可能性がない旨の判断を行ったと認定できる根拠もないため」と述べられています。
たしかに、会計上、非上場株式(時価を把握することが極めて困難と認められる株式)については、当該株式の発行会社の財政状態の悪化により実質価額が著しく低下したときは減損することが大原則となっており、例外的に「ただし、時価を把握することが極めて困難と認められる株式の実質価額について、回復可能性が十分な証拠によって裏付けられる場合には、期末において相当の減額をしないことも認められる。」とされているにすぎません(金融商品実務指針92項)。
さらに金融商品会計基準Q&A33では以下のように述べられています。
A: 時価を把握することが極めて困難と認められる株式の減損処理について、金融商品会計基準第21項では、「発行会社の財政状態の悪化により実質価額が著しく低下したときは、相当の減額をなし」とされており、時価のある有価証券と異なって、実質価額の回復可能性は減損処理の要否の判定要件とはされていません。(以下省略)
会計実務上は、上記などから、非上場株式について実質価額が50%超下落した場合には、回復可能性を判断することなく(回復可能性あるという主張はあきらめて)減損処理することが通常であると考えられます。
したがって、税務上の損金算入要件を満たすための回収可能性の判断を別途行わなければならないところ、その判定を行ったと認定できる証拠もなく、損金算入が認められなかったということのようです。
税務上の損金算入要件の一つである「1株当たり純資産価額が50%以上下回ること」における1株あたり純資産価額は時価ベースで算出すべきものとされています(法人税基本通達の疑問点5訂版P491)。会計上も、「財政状態とは、一般に公正妥当と認められる会計基準に準拠して作成した財務諸表を基礎に、原則として資産等の時価評価に基づく評価差額等を加味して算定した1株当たりの純資産額をいい」(実務指針92項)とされており、時価を勘案することが要求されているものの、会計実務上、株式の減損を行うにあたり独自に時価評価を勘案することはあまりないと思います。
一般的に、少数株主として出資している非上場株式について、出資先の資産・負債を適切に時価評価できるような情報を入手するのは困難ですので、上記のような判決をみてしまうと、税務上、非上場株式の評価損を損金算入するのには消極的になってしまいますね。
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