休職制度と労働法(その1)
最近、いくつかのクライアント先で、怪我やうつ病等の精神疾患によって休職しはじめた従業員がいるという話を聞いていたところ、ビジネスガイド(日本法令)の2011年6月号で「休職制度の見直しと整備」という特集が組まれていましたので、あらためて休職制度の内容を確認することにしました。
例えば、冬に繁忙期をむかえるような会社で、従業員の一人が休日にスノボに行って足を骨折し、不幸にもしばらく入院しなければならなくなったとします。その従業員が「しばらく出勤できそうもないので、休職させて下さい。」と言ってきたときに、繁忙期でイライラしていた社長が「社会人としての自覚が足りない!そんな奴はクビだ!」と言ったとしたらどうなるのでしょう?
直観的にクビはやりすぎと考える方が多いのではないかと思うものの、上記のような場合であれば社長の怒りも理解できなくはありません。仮に、クビを宣告された従業員が退職を余儀なくされれば、その後この解雇を巡って争いになることも考えられます。
もっと極端な例で考えれば、就業規則で休職の定めをおいていない会社において、病気でしばらく休職が必要となった従業員がいたとします。その従業員の上司は、この従業員のことが嫌いだったので、有給休暇の日数内に職場に復帰できなかったことをもって退職扱いとして処理してもよいのでしょうか?
このようなことを考えるために「休職」というものの性質をよく理解しておく必要があると考えられます。
参考までに休職という制度の生い立ちについて述べておくと、休職制度は当初、官公庁で採用されたシステムであったものが、昭和の時代に優秀な人材が民間企業から雇用保障・労働条件の手厚い公務員に流れるのを食い止めるため大企業を中心に民間企業に広がってきたものです。
1.休職と休業の違い
休職というとなんとなく育児休業や介護休業を連想してしまいますが、休職と休業は以下のように性格が異なります。
①休職
労働者側の帰責事由による就労禁止または使用者側の事情による就労免除
②休業
労働者が権利として労働義務を免除され得ることを保証する制度。ただし、使用者に休業手当の支払義務が生じる「使用者の責に帰すべき事由による休業」(労働基準法26条)の場合の「休業」は使用者の帰責事由によって労働日における就労が不能となることを意味します
上記から休職は「労働者の権利」として認められるものではないということがわかります。それでは休職の本質は何かということになりますが、「休職制度の本質は解雇猶予制度」です(ビジネスガイド2011年6月号)。
つまり、私傷病で欠勤が一定期間続いた場合に、本来普通解雇になり得るところを、就業規則の休職規定に基づいて、一定の休職期間を与えていったん解雇を猶予し、休職期間満了時に治癒していれば復職を認め、治癒していなければ労働契約を解消するという制度であるといえます。
判例(北産機工事件 平成11年9月21日 労判769-20)でも、6カ月を限度に業務外の傷病による休職期間設けた休職制度について、「この期間中従業員の労働契約関係を維持しながら、労務への従事を免除するものであり、業務外の傷病により労務提供できない従業員に対して6カ月にわたり退職を猶予してその間傷病の回復を待つことによって、労働者を退職から保護する制度である」とされています。
2.休職の類型
休職については、各社の就業規則で定められているのが一般的だと考えられます。市販されている規程集などに記載されている一例をあげると以下のようになります。
第13条(休 職)
1.社員が次の各号の一に該当するに至ったときには,その翌日から期間を指定して休職を命ずる。
(1) 業務外の傷病による連続欠勤が3カ月に達したとき
(2) 業務の都合により他社へ出向を命ぜられたとき
(3) 国又は地方自治体の議員となり就業が困難となったとき
(4) 刑事事件に関して拘留又は起訴され,休職させることを適当と認めたとき
(5) 前各号のほか,特別の事情があり休職させることを適当と認めたとき
2. 業務外の傷病による欠勤の中途で,治癒しないまま一時的に出勤し,再度同一傷病により欠勤を開始した場合の前項第1号の適用にあたっては,一時的な出勤日を除き前後の欠勤が連続しているものとみなす。
会社によって、異なるものの休職扱いとなる事由の主要な類型は以下のようなものです。
1)労働者の業務外疾病や負傷を理由とする傷病休職
2)傷病以外の事故による欠勤を理由とする事故欠勤休職
3)刑事事件で起訴されたものを一定期間または判決確定時まで休職させる起訴休職
4)海外留学や公職就任のためにとられる自己都合休職
5)出向期間中の出向休職
次に休職の成立要件が問題となりますが、区切りがいいので次回以降にします。
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