平成28年3月期から適用される税制改正内容を確認(その4)
平成28年3月期決算に影響する平成27年度以前の税制改正の内容について確認していきます。
9.研究開発税制
研究開発税制については、新たに「オープンイノベーション型」という区分が設けられました。これは、国立研究機関や大学等の特別研究機関等と共同で試験研究を行った場合に、自社が負担した試験研究費の一定割合を法人税額から控除できるとする制度です。
控除限度額は法人税額の5%で、従来の総額型の控除上限であった法人税額の30%(時限措置による10%上乗せを含む)が、平成27年度税制改正によって総額型25%とオープンイノベーション型5%に分割された格好となっています。
したがって、総額型の税額控除を利用するケースでは、控除限度額が5%引き下げられることとなります。
オープンイノベーション型は、大学との共同研究や中小企業に支払う知的財産権の使用料など、その多くで監査を受ける必要があること、契約または協定において記載すべき事項が法令で定められており、記載漏れがあると支出した費用が特別試験研究費の額として認められないなど利用のハードルは高い制度といえます。
上記のほか増加型、高水準型を含む研究開発税制の控除上限等をまとめると以下のようになっています。
種類 | 総額型 | オープンイノベーション型 | 増加型 | 高水準型 |
---|---|---|---|---|
控除上限 | 法人税額の25% | 法人税額の5% | 法人税額の10% | 法人税額の10% |
控除率 | 試験研究費の総額の8~10%(中小企業者等の場合は12%) | 特別試験研究費の総額の20%又は30% | 試験研究費の増加額の5%~30% | 売上高の10%を超える試験研究費の額の一定割合 |
根拠法令 | 措法42の4①② | 措法42の4③ | 措法42の4④一 | 措法42の4④二 |
なお、上記の増加型と高水準型はどちらか一方の選択適用となっています。
対象試験研究費
対象となる研究開発費については、製品の製造又は技術の改良、考案若しくは発明に係る試験研究のために要する費用で以下のものとされています( 措法42の4⑥一 、 措令27の4 ②、 措通42の4(1)-4 )。
- その試験研究を行うために要する原材料費、人件費(専門的知識をもつて当該試験研究の業務に専ら従事する者に係るものに限る。)及び経費
- 他の者に委託して試験研究を行う法人(人格のない社団等を含む。以下この章において同じ。)の当該試験研究のために当該委託を受けた者に対して支払う費用
- 技術研究組合法第9条第1項の規定により賦課される費用
- 人が自ら行う製品の製造又は技術の改良、考案若しくは発明に係る試験研究の用に供する減価償却資産に係る減価償却費
中小企業では「専門的知識をもつて当該試験研究の業務に専ら従事する者に係るものに限る」という部分のハードルが高く感じられますが、この要件については、平成15年に中小企業庁が国税庁に照会した「通知」(試験研究費税額控除制度における人件費に係る『専ら』要件の税務上の取扱いについて)において以下のすべてを満たす者も該当するとされています。
- 試験研究のために組織されたプロジェクトチームに参加する者が、研究プロジェクトの全期間にわたり研究プロジェクトの業務に従事するわけではないが、研究プロジェクト計画における設計、試作、開発、評価、分析、データ収集等の業務(フェーズ)のうち、その者が専門的知識をもって担当する業務(以下「担当業務」という。)に、当該担当業務が行われる期間、専属的に従事する場合であること。
- 担当業務が試験研究のプロセスの中で欠かせないものであり、かつ、当該者の専門的知識が当該担当業務に不可欠であること。
- その従事する実態が、おおむね研究プロジェクト計画に沿って行われるものであり、従事期間がトータルとして相当期間(おおむね1ヶ月(実働20日程度)以上)あること。この際、連続した期間従事する場合のみでなく、担当業務の特殊性等から、当該者の担当業務が期間内に間隔を置きながら行われる場合についても、当該担当業務が行われる時期において当該者が専属的に従事しているときは、該当するものとし、それらの期間をトータルするものとする。
- 当該者の担当業務への従事状況が明確に区分され、当該担当業務に係る人件費が適正に計算されていること。
10.地方拠点強化税制
最後に地方拠点強化税制です。この税制によって地方に拠点を移転しようとする会社は稀だと考えられますが、税務的なメリットとは関係なく地方に拠点を設けた場合にも適用可能ですので簡単に内容を確認しておきます。
地方拠点強化税制は大きく移転型と拡充型の二つの制度に分けられます。政府が地方創生
を掲げていることから想像できるとおり、税務上の優遇措置は移転型の方が大きくなっています。
この制度の適用を受けるためには、大前提として地方自治体が当税制の対象地域に設定する区域等を記載した「地域再生計画」を策定し、内閣総理大臣の認定を受けている必要があります。その上で、当税制を利用しようとする事業者は、その設定された区域における「特定業務施設」の整備事業の内容等を記載した計画を作成して都道府県知事の認定を受ける必要があります。
地方拠点強化税制では、「オフィス減税」や「雇用促進税制の特例」を受けることができます。
オフィス減税は、指定期間内に地方自治体が設定した対象区域において「特定業務施設」を整備する計画の認定を受けた法人が、認定日から2年以内に同計画に記載された「特定業務施設」に該当する一定の建物等(特定建物等)を取得・事業供用した場合に、その事業供用年度において一定の特別償却又は税額控除ができるとするものです。
対象資産は、一の建物及びその附属設備並びに構築物の取得価額の合計額が2,000万円(中小企業者は1,000万円)以上とされていますので、小規模の営業所を出すという程度だと適用をうけられない可能性があります。
一方、「雇用促進税制の特例」は、地方自治体が設定した対象区域において「特定業務施設」を整備する計画の認定を受けた青色申告法人が,適用年度において一定要件を満たした場合に、「特定業務施設」における雇用増加数に応じて一定額の税額控除ができるというものです。
「移転型」の場合、以下のすべての要件を満たした場合に、「特定業務施設」における基準雇用者数(地方事業所基準雇用者数)×50万円の税額控除が可能となります。とはいえ、前提として計画の策定および知事の認定、雇用対策法施行規則附則第8条第3項に規定する「雇用促進計画」の達成状況を確認した旨を記載した書類の写しの確定申告書等への添付などの手続きは必要となりますので、地方創生を促す制度の割に利用するのには手間がかかる制度ではないかと思います。
- 基準雇用者数が5人以上(中小企業者等にあっては2人以上)
- 基準雇用者割合が10%以上
- 給与等支給額が比較給与等支給額(前期の給与等支給額+(前期の給与等支給額×基準雇用者割合×30%))以上
- 同税制の適用を受けようとする事業年度及びその事業年度開始の日前1年以内に開始した各事業年度において,事業主都合による離職者がいない
なお、上記2.の要件を満たさない場合には、「地方事業所基準雇用者数」×20万円の税額控除が認められています。
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