(分類2)の会社がスケジューリング不能な一時差異の回収可能性を合理的に説明するかどうかは会社次第?
「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」(企業会計基準適用指針第26号)については平成28年3月期末から早期適用が認められていましたが、ほとんどの3月決算会社は原則適用を選択したようです。
したがって、3月決算会社の多くは、平成29年3月期の期首から同適用指針を適用することとなりますが、同指針では、分類2の会社がスケジューリング不能な一時差異について将来いずれかの時点で回収できることを合理的な根拠をもって説明する場合には、当該将来減算一時差異に係る繰延税金資産を回収可能性があるものとして取り扱うことが認められることとなっています(適用指針21項)。
ここで、問題となるのは、会社が合理的に説明しようとすれば説明できる状況にあったとしても、会社が説明しなければ繰延税金資産を計上しないということになるのかという点です。
この点については、公開草案に対して以下のコメントが寄せられています。
「同じ性格のスケジューリング不能な将来減算一時差異があり、同様の状況下にあるとしても、会社が「合理的な説明」を行わない場合は繰延税金資産が計上されず、「合理的な説明」を行った場合は繰延税金資産が計上されるということになるのか、明確にしていただきたい。 」(ASBJ 「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針(案)」に対するコメント 40))
この「コメントへの対応」としては、「なお、「企業が合理的な根拠をもって説明する場合」(本公開草案では「合理的に説明できる場合」)に関する取扱いは、原則的な定めに対して、繰延税金資産の計上額が企業の実態をより適切に反映したものとなることを意図して、原則とは異なる取扱いを容認するものである。当該意図が明確になるように、本適用指針第77項及び第78項の記載を追加している。」とされています。
質問に対しては、素直にYesかNoで答えてもらいたいところですが、仕方がないので、適用指針の第77項及び78項を確認すると以下のように記載されています。
77. 第 21 項ただし書きは、(分類 2)に該当する企業においては、スケジューリング不能な将来減算一時差異に係る繰延税金資産について回収可能性がないものとする原則的な定めに対して、スケジューリング不能な将来減算一時差異を回収できることを企業が合理的な根拠をもって説明する場合には原則とは異なる取扱いを容認することで、繰延税金資産の計上額が企業の実態をより適切に反映したものとなることを意図したものである。
78. 公開草案では、原則とは異なる取扱いに関して「合理的に説明できる場合」としていたが、この表現に対し、公開草案に寄せられたコメントの中には、企業が説明できる状況にあるが説明を行わなかった場合の取扱いが不明確であるとの意見があった。
この点、第 21 項ただし書きは、企業の検討に基づき適用する場合にのみ原則とは異なる取扱いを容認することを意図しているため、その意図を明確にするために検討を行う主体が企業であることを明示した。また、当該検討においては根拠が必要であることを明示するために、「根拠をもって」との記載を追加した。これらの結果、公開草案における「合理的に説明できる場合」との表現を、「企業が合理的な根拠をもって説明する場合」に変更することとした。
結局どうなのかですが、「企業の検討に基づき適用する場合にのみ原則とは異なる取扱いを容認することを意図している」ということですので、合理的に説明可能な状況にあったとしても、会社が説明しない限りは繰延税金資産を計上することはできない(計上されない)ということになります。
ASBJ主催の「四半期報告書作成上の留意点(平成28年6月第1四半期提出用)」の前半の解説でも、上記のコメントに対して検討する主体が「企業」であることを明確にした旨が解説されていましたので、コメントに対する回答はその通りということになると考えられます。
そうだとすると、適用初年度の期首において分類2の会社が合理的な説明によってスケジューリング不能の一時差異に対して繰延税金資産を計上した場合には利益剰余金での調整となり、2年目以降に合理的な説明をすることで繰延税金資産を計上すればPLにヒットさせることが可能となるということになりますが、スケジューリング不能な一時差異に対して合理的な説明によって繰延税金資産を一度計上したら、以後ずっと回収可能性を説明し続けなければならならないこと、業績が落ち込んだ場合には取崩が必要となる可能性が高いこと、対投資家では税金部分で業績を作ってもあまり効果はないと思われることなどからすれば、例外的な取扱いを適用するための要件として会社の説明を求めるという適用指針の考え方も一理あるのかもしれません。