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精神障害を事由とする労災申請(その2)

「精神障害を事由とする労災申請(その1)」の続きです。

前回も記載しましたが、厚生労働省作成の「精神障害等の労災認定について」によると、「精神障害」が業務上の疾病として認められる判断要件は、以下のようになっています。

(厚生労働省「精神障害等の労災認定について」より抜粋)

この判断要件に合致しているか、つまり業務上外の判断は、以下の順序で検討されます。
(精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会 第2回 資料2より)

以下、上記の判断要件の内容を個別に確認していきます。

1.「判断指針で対象とされている精神障害を発病していること」について

まず「判断指針で対象とされている精神障害」とは何かですが、判断指針では以下のようになっています。
——————————————————
「本判断指針で対象とする疾病(以下「対象疾病」という。)は、原則として国際疾病分類第10回修正(以下「ICD-10」という。)第Ⅴ章「精神および行動の障害」に分類される精神障害とする。

なお、いわゆる心身症は、本判断指針における精神障害には含まれない。」
—————————————————–

そして、ICD-10の第Ⅴ章「精神および行動の障害」では以下のように分類されています。

(厚生労働省「精神障害等の労災認定について」より抜粋)

上記の要件では単に「判断指針で対象とされている精神障害」となっていますが、一方で「判断指針」では「対象疾病のうち主として業務に関連して発病する可能性のある精神障害は、参考に示したICD-10のF0からF4に分類される精神障害である。」とされています。したがって、F0~F4に分類される症状以外の場合は、労災として認めてもらうためのハードルがあがるものといえます。

2.「対象疾病の発病前おおむね6か月の間に、客観的に当該精神障害を発病させるおそれのある業務による強い心理的負荷が認められること」について

この要件の判断にあたっては、「職場における心理的負荷評価表」が判断指標として用いられます。そして、この評価表では以下の三つの視点から総合的な評価が下されるようになっています。

①平均的な心理的負荷の強度を評価する視点
当該精神障害の発病に関与したと認められる出来事が、一般的にはどの程度の強さの心理的負荷と受け止められるかを判断する

②心理的負荷の強度を修正する視点
出来事の個別の状況を斟酌し、その出来事の内容等に即して心理的負荷の強度を修正する

③出来事に伴う変化等を検討する視点
出来事に伴う変化等はその後どの程度持続、拡大あるいは改善したかについて評価する

業務による心理的負荷の強度の評価フローをまとめると以下のようになります。

心理的負荷の程度(「Ⅰ」~「Ⅲ」)は以下のように定義されています。
「Ⅰ」 日常的に経験する心理的負荷で一般的に問題とならない程度の心理的負荷
「Ⅱ」 「Ⅰ」と「Ⅲ」の中間に位置する心理的負荷
「Ⅲ」 人生の中でまれに経験することもある強い心理的負荷

参考までに「出来事の類型」、「具体的出来事」および「心理的負荷の強度を修正する視点」に示されている項目の一部を抜粋すると以下のような項目になっています。アンダーバーがついている項目は平成21年の改正で追加された項目です。

出来事の平均的な心理的負荷の強度の修正として、留意すべきは「出来事の発生以前から続く恒常的な長時間労働、例えば所定労働時間が午前8時から午後5時までの労働者が、深夜時間帯に及ぶような長時間の時間外労働を度々行っているような状態等が認められる場合には、それ自体で、別表1の(2)の欄による心理的負荷の強度を修正する。」とされている点です。

上記表の3ステップ目の「出来事に伴う変化等による心理的負荷の評価」として考慮すべき点としては以下の項目が挙げられています。

イ) 仕事の量(労働時間等)の変化
ロ) 仕事の質の変化
ハ) 仕事の責任の変化
二) 仕事の裁量性の欠如
ホ) 職場の物的、人的環境の変化
へ) 支援・協力等の有無

具体的な着眼点としては、平成21年の改正により以下のような事項が明示されました。

以上の点を総合的に判断して「客観的に精神障害を発病させるおそれのある程度の心理的負荷」が認められるかどうかを判断することになります。

「客観的に精神障害を発病させるおそれのある程度の心理的負荷」とは、評価表の総合評価が「強」と認められる心理的負荷とされています。

そして、心理的負荷が「強」と認められるのは以下の場合とされています。
①ステップ2までで評価された心理的負荷の強度が「Ⅲ」で、かつステップ3での評価が相当程度加重であると認められるとき

「相当程度加重」とは、評価表の(3)の欄で示されている各々の項目に基づき、「多方面から検討して、同種の労働者と比較して業務内容が困難で、業務量も過大である等が認められる状態をいう」とされています。

②ステップ2までで評価された心理的負荷の強度が「Ⅱ」で、かつステップ3での評価が特に過重であると認められるとき

「特に過重」とは、評価表の(3)の欄で示されている各々の項目に基づき、「多方面から検討して、同種の労働者と比較して業務内容が困難であり、恒常的な長時間労働が認められ、かつ、過大な責任の発生、支援・協力の欠如等特に困難な状況が認められる状態をいう」とされています。

ステップ2までの評価が「Ⅱ」だと、基本的には持続性の視点での評価が「特に過重」でなければ、総合評価が「強」(つまり業務に起因するもの)とされません。「特に過重」は上記の定義を読むと、まさに「特に過重」であり、結構厳しい要件になっています。

ただし、「特別な出来事等の総合評価」という救済条項といえるようなものが設けられています。「特別な出来事等」として掲げられている事実が認められる場合には、ステップ3の評価を加味した上記①および②の基準にかかわらず、総合評価を「強」とすることができるとされています

イ 心理的負荷が強度のもの(これはステップ2までの評価が「Ⅲ」であるものに限られます)
ロ 業務上の傷病により6カ月を超えて療養中の者に発病した精神障害
ハ 極度の長時間労働

上記から極度の長時間労働により、精神障害が発病した場合には労災として認められる可能性が相対的に高くなると考えられます。
なお、極度の長時間労働とは、「例えば数週間にわたり生理的に必要最小限度の睡眠時間を確保できないほどの長時間労働」とされています。

具体的にどれくらいの長時間労働であれば労災として認められやすいのかという点については、精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会の第2回の資料2で示されている「5 労働時間と認定状況の関係」が参考になります。
この資料では、平成21年度の時間外労働時間数の区分ごとに決定件数全体と業務上(労災)として認定された件数のデータが開示されています。

上記のデータからすれば、時間外労働が120時間以上だと100%労災と認定されています。また、傾向としては80時間を超えると労災として認定される率が格段に高くなるといえそうです。80時間というのは、過労死の判定にあたり基準とされる水準であることからしても、時間外労働80時間が一つの目安となるといえます。

長くなりましたので、「業務以外の心理的負荷の強度の評価」以降については、次回以降とします。

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