日台租税条約の不思議-どうやって実現したか?
最近、日台租税条約に関連したセミナー案内をいくつか見ました。平成28年税制改正で、法整備がどうこうというものがあったような気はしたものの、よい機会なので確認してみました。
そもそもの疑問は、租税条約は国と国が締結するものなので、日本と台湾がどうやって租税条約を締結できたのだろうかという点です。
直近ではシャープが鴻海の子会社となるということが話題となりましたが、日本と台湾との経済的な関係は強いといえます。また、東日本大震災の際には、真っ先に日本に多額の義援金を送ってくれたのも台湾の方々であり、一般的に台湾は親日国といえそうです。
しかしながら、政治的には、1972年の日中関係正常化後、日本と台湾の国交は断絶されています。日本から台湾への旅行に出かける日本も多く、国交が断絶されているという感じはしませんが、現在も正式な外交関係は存在しない状態が続いています。
このような状況を踏まえると、経済的な関係が強くとも租税条約が今まで締結されていなかったというのも理解できますが、一方で、どうやって租税条約を締結できたのかが気になります。
民間団体間での取り決めとしてスタート
2015年11月25日に「所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための公益財団法人交流協会と亜東関係協会との取決め」が締結されました。
題名から租税に関する取り決めであることは分かりますが、この取り決めの主体は、日本側が公益財団法人交流協会、台湾側が亜東関係協会という民間団体となっています。ただし、民間団体とはいえ、両者ともに国の大使館や領事館が行うような、公的な業務も扱う団体となっています。正式な外交関係がないため、形式的には非政府組織、実質的には政府組織というような団体といってよさそうです。
上記の「取決め」は「第1条 対象となる者」から始まり全29条で構成されおり、体裁は租税条約そのものですが、あくまで民間団体間の取決めにすぎませんので、これを国家間の条約として国会で承認することはできず、この取決めが各国の税務当局の課税権を制限する効力を有するもありません。
租税条約として効力を発揮させるための法整備
上記の通り、「所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための公益財団法人交流協会と亜東関係協会との取決め」だけでは、課税面では何らの効力も発揮しないため、平成28年税制改正でこの取決めを租税条約として機能させるための法整備が行われました。
具体的には「外国人等の国際運輸業に係る所得に対する相互主義による所得税等の非課税に関する法律」の題名を「外国居住者等の所得に対する相互主義による所得税等の非課税等に関する法律」に改められた上で、台湾との相互主義に基づき、台湾との間の二重課税を排除する等のための措置が講じられています(「平成 28 年分 所得税の改正のあらまし」国税庁)。
これにより、上記の取決めが「日台租税条約」と称されるものに位置づけられました。
適用開始時期
日本における効力の発生時期は、取決めの第28条において、以下のように定められています。
①課税年度に基づいて課される租税
取決めが効力を生ずる年の翌年の1月1日以後に開始する課税年度から適用
②課税年度に基づかないで課される租税
取決めが効力を生ずる年の翌年の1月1日以後に課される租税から適用
ただし、「公益財団法人交流協会及び亜東関係協会は、この取決めの効力発生のためにそれぞれの地域において必要とされる手続が完了したことを書面により相互に通知する。この取決めは、双方の書面による通知のうちいずれか遅い方が受領された日に効力を生ずる。」とされています。
日本においては、上記のとおり平成28年度税制改正によって必要な手続きは完了し、台湾側での処理も完了したため、2016年6月13日に発効し、2017年1月1日から適用開始となりました(2016年7月21日修正)。
限界税率
取決めの具体的な内容については割愛しますが、最後に配当等の限界税率のみ確認しておくと以下のようになっています。
配当(第10条)・・・10%
利子(第11条)・・・10%
使用料(12条)・・・10%