常勤から非常勤になった取締役が報酬の減額に同意しなかった場合はどうなる?
常勤取締役が何らかの事情で非常勤の取締役になるということがあります。一般的に、非常勤取締役の報酬は常勤取締役に比して低く設定されているので、常勤取締役が非常勤取締役になった場合には、報酬が減額改定されることが多いのではないかと思います。
常勤から非常勤取締役になった取締役が減額改定に同意している場合は特に問題とはなりませんが、仮に当該取締役が、常勤時の報酬を要求した場合、会社は本人の同意なくして報酬を減額できるのかが問題となります。
常勤が非常勤になったのであれば、職務に割かれる時間も大きく異なるので報酬が減額されるのが普通だと考えてしまいますが、結論としては、このような場合であっても本人の同意がなければ一方的に報酬を減額することはできないとされています。
平成4年12月18日の最高裁判例では、「報酬額が具体的に定められた場合には、その報酬額は、会社と取締役間の契約内容となり、契約当事者である会社と取締役の双方を拘束するから、その後株主総会が当該取締役の報酬につきこれを無報酬とする旨の決議をしたとしても、当該取締役は、これに同意しない限り、右報酬の請求権を失うものではない」とされています。
また、平成10年11月24日の最高裁決定では、「株式会社において、定款又は株主総会の決議(株主総会において取締役報酬の総額を定め、取締役会において各取締役に対する配分を決議した場合も含む。)によって取締役の報酬が具体的に定められた場合には、その報酬額は、会社と取締役会との間の契約内容となり、契約当事者である会社は取締役会によって一任された代表取締役によって当該取締役の報酬を減額する旨の決議または決定がなされたとしても、当該取締役がこれに同意しないかぎり、右報酬の請求権を失うものでなく、この理は、取締役の職務内容に著しい変更があり、それを前提に減額決議ないし減額決定がなされた場合であっても異ならないと解するのが相当である」とされています。
職務内容が大きく異なったという点については、「たしかに、取締役の報酬も職務の対価であるから、取締役としての職務内容が変更された場合には、それに応じて報酬額を変動させることが合理的な場合もあろうが、それはあくまで当該会社の職務内容との関係で決定されるものであり、全産業・全規模平均の非常勤取締役の報酬水準と比較することに合理性があるかどうかは疑問である」とし、「取締役の報酬について会社と当該取締役との間の契約内容となっている取締役の報酬額を減額することができるとするためには、合理的というだけでなく、別の根拠、すなわり当該取締役の同意が必要である」とされています。
会社にとっては酷に思えますが、「取締役の報酬額の定めが当時者を拘束するのは最長でも取締役の任期の2年であり、それほど長期であるとはいえず、その間の取締役の職務内容の変更の可能性は、会社としては当然に予想すべきものである」とされています。
加えて、非常勤取締役とはいえ、取締役として取締役会を通じて職務の適正を確保するという責任は変わらないという点をもって、非常勤取締役となった取締役が従前の報酬を請求しても信義則違反にはならないという結論となっています。
あまりしっくりとはきませんが、それが判例である以上、上記のように考えておく必要があります。