有償新株予約権も費用計上が必要となる方向で検討中
今回は最近発行が増加している有償新株予約権についてです。
有償新株予約権は、新株予約件の公正な評価額による払込金額を、役員や従業員が現金を払い込んで取得するものです。
有償新株予約権は、役員や従業員等が実際に金銭を振り込むという違いはあるものの、新株予約件の対価が高くならないような条件設定が行われると、実態としては無償のストック・オプションとそれほどかわらないとも考えられます(直近の発行事例については、半年くらい前に”有償発行ストック・オプションの事例比較”で記載したので興味のある方はそちらを御確認ください。)。
この有償新株予約権の会計処理については、企業会計基準適用指針第17号「払込資本を増加させる可能性のある部分を含む複合金融商品に関する会計処理」と企業会計基準第8号「ストック・オプション等に関する会計基準」のいずれの適用範囲となるのかが明確ではありませんが、現行実務としては、前者の適用範囲として会計処理していることが通常のようです。
すなわち、発行時の払込金額を新株予約権として計上し、権利行使時に権利行使に伴う払込金額及び行使された新株予約権の金額の合計額を資本金又は資本剰余金に計上するという会計処理です。
新株予約権取得者の税務上の取扱いは、有償新株予約権も税制適格ストック・オプションも株式を譲渡した時点で譲渡所得として課税されるという点では同じですが、会計処理としては前者が単なる金融商品の取引として処理されるのに対して、税制適格ストック・オプションではストック・オプション会計基準の適用を受け、付与時の公正価値について勤務対象期間にわたって費用計上が求められるという点で異なります。
この費用計上不要という点が、税制適格ストック・オプションと比較した場合の有償新株予約権ののメリットと認識されているとのことです。個人的には、リターンも大きい代わりに当初の取得原価もある程度高い有償新株予約権を発行することで、身銭を切るリスクを負わせて業績達成等のインセンティブを高めるという方がメリットのような気はしますが、実際の発行事例からすると発行価額は低めに設定されていることが多いので、費用負担という面はやはり意識されていると考えられます。
そして、現在、ASBJ(企業会計基準委員会)は、有償新株予約権の会計処理を費用計上を求める方向で検討しているとのことです。
これは、「勤務条件及び業績条件が付された有償新株予約権」は、「①資金調達としての性質や投資の機会の提供としての性質を有するものの、役員又は従業員に限定して付与され、かつ、権利確定条件が設定されていることから、付与日以降の将来の労働サービスの提供に対する対価としての「報酬」としての性格を併せ持つこと、②付与時に役員又は従業員が金銭を企業に払い込む点を除けば、取引条件が、無償のストック・オプションと基本的に同じであることなど」を理由としているとのことです(T&A master No.656)。
有償新株予約権には業績条件のみが定められている場合があり、このような場合はどうなるのかですが、このような条件の場合も”「勤務条件及び業績条件が付された有償新株予約権」と同様、ストック・オプション会計基準の適用範囲に含め、原則として、付与日以降の将来の労働サービスの提供に対する対価として報酬費用を認識する方向”(同上)とのことです。
理由は端的に言えばインセンティブとしての効果があるからということのようです。ただし、離職率が極めて高いような場合など、付与日以降の将来の労働サービスの提供に対する対価とすることが適当でないケースでは、過去の報酬として付与日に報酬費用を認識するというような方向で検討がなされています。
そのような処理を行う場合、追加で注記も求められるようなので、いずれにしても費用計上処理であれば、このような処理をするメリットはないように思います。
最後に、上記のような方向で基準が改正された場合、過去に発行済の有償新株予約権の処理はどうなるのかですが、この点については経過措置が設けられ、従来の処理の継続が認められる一方で、注記が求められるということになるようです。
また、”経過的な取扱いを「適用日以降」とした場合については、駆け込み導入が増えることが懸念されるため、会計基準等の「公表日以降」とされる可能性もある”とのことなので、導入を検討されている企業は、ASBJの意見募集などの進捗にも注意が必要です。