グループ法人税と税効果(譲渡損益の繰延)
グループ法人税の導入に伴い、関連する実務指針である会計制度委員会報告第10 号「個別財務諸表における税効果会計に関する実務指針」、会計制度委員会報告第6号「連結財務諸表における税効果会計に関する実務指針」は、それぞれ平成22年9月3日付で改正されています。
個別財務諸表における税効果会計に関する実務指針第8項(一部抜粋)
「完全支配関係(法人税法第2条12の7の6号参照)にある国内会社間の資産の移転による譲渡損の繰延べに係る税務上の調整資産、完全支配関係にある国内会社間の寄附金受領法人の株主における子会社株式の税務上の簿価修正も将来減算一時差異となる。」
個別財務諸表における税効果会計に関する実務指針第10項(一部抜粋)
「完全支配関係にある国内会社間の資産の移転による譲渡益の繰延べに係る税務上の調整負債、完全支配関係にある国内会社間の寄附金支出法人の株主における子会社株式の税務上の簿価修正も将来加算一時差異となる。」
上記で掲げられている一時差異のうち、今回は譲渡損益の繰延べに対する税効果を確認します。
1.個別財務諸表
実務指針の改正により、グループ法人税による譲渡損益の調整や寄附金関連の簿価修正が一時差異として税効果の対象となることが明らかにされています。
資産負債法の考え方にたっているので、グループ法人税の適用により、会計上の資産・負債と税務上の資産・負債の金額に差異が生じれば一時差異として税効果の対象となります。
通常、税務上認められていない費用等を未払計上していることが多く会計上の負債>税務上の負債の状態になれているので、売却益が繰り延べられている場合が直観的には理解しにくいように思います。売却益が繰り延べられている場合は、会計上の負債がゼロであるのに対して、税務上は将来払わなければならない繰延られている売却益(例えば100)があるため、会計上の負債<税務上の負債となり、繰延税金負債を計上する必要があるというように考えることになると思います。
ちなみに、完全支配関係にある国内会社間の譲渡取引の損益の繰延べについては、売主側の財務諸表における一時差異に該当し、売手側で将来回収・支払が行われると見込まれる期の税率を用いて税効果を計算することになります(第33-2項)。
簡単な例で、譲渡損益の繰延に対する個別財務諸表における税効果を確認します。
<前提>
・P社(親会社)、A社(P社の100%子会社=完全支配関係にある)、X社はグループ外部の会社
・X1期にP社からA社に譲渡損益調整資産となる簿価1000の土地を1200で売却(売却益200)。
・X2期にA社がX社に上記土地を売却
・P社の実効税率は40%
・X1期のP社の税前利益は200(すなわち土地の売却益と等しい)、譲渡損益調整後の課税所得は0する
・X2期のP社の税前利益および譲渡損益調整前の課税所得は0とする
<P社における税効果>
①X1期の仕訳
P社の税務上、売却益200が減算項目として繰り延べられることになるので、200×40%=80を繰延税金負債として計上する。
借方)法人税等調整額 80 貸方)繰延税金負債 80
②X2期の仕訳
100%子会社であるA社がP社から購入した土地をグループ外に売却しているので、P社の税務上繰り延べられている売却益が実現し課税が生じる。よって、会計と税務の差が解消されるため繰延税金負債を取り崩す。
借方)繰延税金負債 80 貸方)法人税等調整額 80
X1期とX2期の税前利益と負担税率の関係をまとめると以下の通りとなり、繰延税金負債の計上により税前利益に対する税額の割合が適切になっているのが確認できます。
2.連結財務諸表
完全支配関係にある国内会社間の資産の移転に係る譲渡損益のうち一定の要件を満たすもので税務上課税の繰延べが行われた損益は、基本的には、連結財務諸表上においても消去されることから、繰延税金資産及び繰延税金負債を認識しないとされています(「連結財務諸表における税効果会計に関する実務指針」第12-2項)。
つまり、譲渡損益の繰延に対して個別財務諸表で認識されている繰延税金資産・負債を取り崩す必要があります。
前述の個別財務諸表のケースでは、連結上以下の仕訳が必要となります。
借方)土地売却益 200 貸方)土地 200
借方)繰延税金負債 80 貸方)法人税等調整額 80
A社の税前利益、法人税等を0とした場合、連結上の税前利益と税金の関係は以下のようになります。
連結会社相互間の取引から生じた未実現損益消去された場合の税効果(従来から行われていた税効果)では、個別財務諸表では課税関係が終了している一方で、連結上は未実現利益の消去が行われることから繰延法の考え方に基づいて連結固有の税効果を認識します。
グループ法人税制により譲渡損益が繰り延べられているものについては、個別財務諸表で課税関係が終了していないため単に個別財務諸表で認識された税効果を連結上は取り消してやることによって税効果会計の目的が達成されることになります。
最後に、連結会社相互間の取引から生じた未実現損益が消去された場合の税効果とグループ法人税制により個別財務諸表における譲渡損益の繰延に対する税効果の差異をまとめておきます。
(*1)ただし、未実現理栄の消去に係る将来減算一時差異の額は、売却元の売却年度における課税所得の額を超えてはならない。また、未実現損益の消去に係る将来加算一時差異の額は、売却元の当該未実現損失に係る損金を計上する前の課税所得額の額を超えてはならない。
日々成長。