過年度遡及修正と内部統制報告制度の関係
過年度遡及修正を行った場合、内部統制報告制度との関係はどう考えればいいのかが今回のテーマです。
まずはじめに、過年度遡及修正を行った場合に当期の(連結)財務諸表が財務報告の範囲に含まれるのは当然として、修正された過年度の(連結)財務諸表は当期の内部統制報告制度における財務報告の範囲に含まれるのかですが、これは含まれると考えられます。
内部統制府令の第2条では、財務報告を「財務諸表(連結財務諸表を含む)及び財務諸表の信頼性に重要な影響を及ぼす開示に関する事項に係る外部報告をいう」としています。一方で、比較情報は当期の(連結)財務諸表の一部であるとされています(財規6条、連結財規8条の3)ので、結局遡及修正された過年度の(連結)財務諸表も財務報告の範囲に含まれるということになると考えられます。
会計方針の変更による遡及修正と過年度の誤謬による遡及修正では、その性質が異なるので、それぞれが内部統制報告制度に与える影響を検討します。
(1)会計方針の変更による遡及修正と内部統制監査の関係
①全社的統制との関係
会計方針の変更は以下の二つのパターンに区分されます。
・自発的な会計方針の変更
・会計基準等の改正に伴う会計方針の変更
「会計基準等の改正に伴う会計方針の変更」が全社的統制に影響を及ぼさないとはいいませんが、基本的にはあまり気にしなくてもよいものと思います。
一方で、「自発的な会計方針の変更」については、会計方針は毎期継続適用が原則であり、財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準」の「(参考1)」で「統制環境」の一例として「経営者は、適切な会計処理の原則を選択し、会計上の見積り等を決定する際の客観的な実施過程を保持しているか」という項目が例示されていることからも、自発的な変更は全社的統制の評価に影響を及ぼす可能性があります。
②決算・財務報告に係る業務プロセスの評価との関係
遡及修正については、遡及修正した結果が比較情報に適切に反映(転記)されていることを確認体制が整備されているかを確認することがメインになると考えられますので、決算・財務報告に係る業務プロセスの評価に最も影響するものと考えられます。なお、遡及修正した項目がなくても、前期の有価証券報告書等に記載した数値が、比較情報として適切に転記されることを担保する統制手続きが評価されることになるものと考えられます。
問題は、会計方針の変更によって、比較情報の数値が、前期の有価証券報告書等の記載金額と大きく異なる場合に、あらためて前期の内部統制の評価のやり直しが必要になるのかという点ですが、この点については連結財規改正に伴う金融庁のコメント対応36において、前期の内部統制の評価の再実施は不要という見解が示されています。
参考までに、コメント対応36を以下の転記しておきます。
③主要な業務プロセスとの関係
会計方針が変更されれば、開示される財務報告数値ができるまでの業務プロセスが変化する可能性があるため、主要業務プロセスにも影響する可能性がありますが、これは遡及修正特有の論点ではないものと考えられます。
比較情報の期首残高の調整については上記(2)の範疇で対応し、変更後の数値については新たに変更されたプロセスの統制手続きを評価することになるのではないかと考えられます。
(2)誤謬の訂正による遡及修正と内部統制監査の関係
誤謬の訂正による遡及修正は、過去に間違いがあったことを意味するので、内部統制監査への影響がどうなるのかより気になる点です。
結論としては、誤謬の修正による有価証券報告書等の訂正報告書が、ただちに内部統制報告書の訂正報告書を提出しなければならないということにはならないということになります。
この点については「内部統制報告制度に関するQ&A」の問71が参考になります。
問71では、
「財務報告に係る内部統制は有効である(開示すべき重要な不備がない)と記載した内部統制報告書を、有価証券報告書と併せて提出した後に、財務諸表に記載した数値に誤りがあったとして有価証券報告書の訂正報告書を提出することになった。この場合、「開示すべき重要な不備」がないと記載した内部統制報告書についても併せて訂正報告書を提出しなければならないのか。」
という問いに対して、
「有価証券報告書の訂正報告書が提出されたことをもって、直ちに連動して財務報告に係る内部統制に開示すべき重要な不備がないと記載した内部統制報告書について訂正報告書を提出しなければならないということにはならない。ただし、有価証券報告書の訂正報告書を提出する原因となった誤りを検討し、当該誤りが内部統制の評価範囲内からの財務報告に重要な影響を及ぼすような内部統制の不備から生じたものであると判断される場合には、当該内部統制報告書についての訂正報告書の提出が必要になるものと考えられる。」
とされています。
さらに、「適切に決定された評価範囲の外から開示すべき重要な不備に相当する事実が発見された場合には、内部統制報告書に記載した評価結果を訂正する必要はないと考えられる」とされています。
したがって、以下の二点を検討して、訂正報告書の有無を検討することになるといえます。
①当該年度における内部統制の評価範囲から生じた誤謬であったか
②開示すべき重要な不備(重要な欠陥)に該当するのか
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