法人契約の損害保険から受け取った保険金を従業員へ支払った場合の課税関係
会社が福利厚生目的で役員・従業員を被保険者とする傷害保険を契約することがあります。今回はその税務上の取扱いについてです。
法人が契約者となって、役員・従業員の傷害保険を契約した場合の課税関係は、原則として以下のようになります。
(1)全員付保の場合
法人は福利厚生費として損金算入し、従業員は非課税(=給与所得にならない)
(2)一部付保の場合
法人は給与として原則として損金算入し、従業員は給与として所得税の課税対象となります。ただし、「法人契約特約」を付帯した場合には、法人は損害保険料として損金算入し、従業員は非課税となります。
なお、「法人契約特約」とは、死亡保険金受取人が法人である場合に、死亡保険金だけでなく後遺障害保険金、入院保険金、通院保険金等についても法人に支払うものとする特約のことです。
(3)被保険者が役員の場合
積立保険で払い込み方法が一時払いであったり、他の報酬と合算して過大な報酬とみなされる場合には、役員に対する賞与とみなされる可能性があります。
上記の取扱いは特に違和感はないですが、保険金を受け取った場合の取扱いは迷います。原則的に考えれば、法人は保険料を損金算入しているので、保険金を受け取った場合は益金算入となると考えられます。では、その保険金を従業員に支払った場合は、所得税の課税対象となるのかが気になります。
仮に3万円位であれば、見舞金の範疇であるので特に深く考える必要はないと思いますが、仮に入院保険金が1日1万円で90日分(90万円)であったとしたら金額が大きくなるので、このような場合も従業員は非課税となるのか、あるいは給与として課税対象となるのかが迷うところです。
そもそも所得税法では、損害保険契約に基づく保険金及び生命保険契約に基づく給付金で、身体の障害に基因して支払を受けるものその他これに類するものは非課税とされています(同法9条1項1号、同施行令30条1号)。
なお、「身体の障害に基因して支払を受けるもの」には、疾病により重度の障害になったことなどにより支払を受ける「高度障害保険金、高度障害給付金、入院給付金等」も含まれます(所得税基本通達9-21)。
また、タックスアンサーNo.1760で所得補償保険の保険金を受け取ったときとして以下のように述べられています。
所得補償保険とは、被保険者が病気やけがにより仕事に従事できなくなった場合、その期間の給与や収益を補償する損害保険契約のことです。
所得税法では、病気やけがを原因として、自己又は一定の親族を被保険者とする所得補償保険契約に基づき受け取った保険金は、原則非課税とされます。
なお、事業主が自己又は一定の親族を被保険者として所得補償保険契約の保険料を支払っても事業上の必要経費に算入することはできません。(注)事業主が締結した所得補償保険契約に基づき、被保険者である従業員が支払を受ける保険金も非課税とされます。
ポイントは上記の(注)の部分で、従業員が支払い受ける保険金も非課税とされていますので、損害保険で身体の障害に基因して支払を受けるものであれば考え方は同じだと考えられますので、基本的に従業員に支払われる損害保険の保険金は非課税になると考えられます。
ただし、あらかじめ法人内の規約によって受け取った保険金が従業員に支払われることを定めておく必要があるものと考えられます。なお、福利厚生目的で従業員を被保険者として損害保険に加入しようとする場合、保険会社からそのような雛形が提示され、規約を設けるように言われるのが一般的だと思います。
逆に考えると、「法人契約特約」が付された保険の場合は、受け取った保険金を全額従業員に支払ったとしても、その金額が社会的通念上妥当な範囲かどうかによって、所得税の課税対象となる可能性があると考えられます。
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