海外出向から帰国した従業員等の年末調整
最近年末調整についていくつか書いたので、すこしマニアックですが海外出向から帰国した従業員等の年末調整についてまとめてみます。
まず、居住者・非居住者、あるいは永住者・非永住者との関係について確認します。この区分が重要なのは所得税法において課税の範囲が異なるためです。
例えば10月20日に帰国して11月1日から出社するような場合に、いつから居住者になるかが問題となります。
結論からすれば、出社日にかかわらず帰国日の翌日から居住者かつ永住者となります(所得税法基本通達2-4)。所得税法はサラリーマンに限らず適用されることからすれば、帰国日の出社日に関係なく帰国日を基準に判定がされるというのも当然といえば当然です。
上記の例(10月20日帰国、11月1日帰国後初出社)のケースで、給料の支払いが月末締め翌月10日払いのため10月分の給料を日本で11月10日に支払うとした場合源泉所得税はどうなるかですが、この場合は基本的に11月10日に支払う給与から源泉所得税を控除する必要があります。
なぜなら上記のとおり、帰国した従業員は居住者となるため所得税法7条の定めにより「すべての所得」が課税対象となり、帰国後に支払われる給与はその所得源泉地(給与支給の原因となった労働が行われた場所)に関係なく、すべてが課税対象となるためです。
また、手続き的には、所得税法194条の規定により「給与所得者の扶養控除等申告書」を11月9日(最初の給与を受ける日の前日)までに会社に提出してもらう必要があります。なお、賞与についても給与の場合と同様の考え方によるため、仮に帰国後に支給される賞与の支給対象期間の一部が海外での労働分に対するものであっても、支給額全額が源泉徴収の対象となります。
また、上記の例の場合、年末調整の対象となるというのは、それほど迷わないと思います(ただし帰国後に支払われた給与等の合計額が2000万円以下の場合に限ります)が、いつからの給与が年末調整の対象となるのかは少し迷うかもしれません。
上記のかっこ書きで「帰国後に支払われた給与等の合計額が」となっていることからもわかるかもしれませんが、所得税法190条で「その年中にその居住者に対し支払うべきことが確定した給与等」を対象に年末調整を行うべきとされていますので、帰国後に支払われた給与等のみが年末調整の対象となります。
さらに、年末調整を行う際の各種控除額については、その年において居住者であった期間が何カ月であっても満額控除することができます。例えば、扶養控除については所得税法85条(扶養親族等の判定の時期等)において「その年十二月三十一日の現況による。」とされており、期間按分することは想定されていません。
次に、海外渡航前に日本で加入していた生命保険に継続して加入して保険料を支払っていたような場合に生命保険料控除はどうなるかですが、この場合、生命保険控除の対象となる保険料は帰国後に支払った保険料のみとなります。
これは、所得税法76条(生命保険料控除)において「居住者が,各年において、生命保険契約等に係る保険料又は掛金(カッコ内省略)を支払った場合には、・・・・・から控除する。」と、「居住者」であることが要件となっているためです。
社会保険料についても同様に居住者として支払った金額のみ社会保険料控除の対象となります。海外に出向していて社会保険料が発生するのは、例えば20歳以上の大学生を日本に残して渡航し、子どもの国民年金保険料を支払っていた場合や厚生年金の対象でなくなったことにより配偶者が3号の資格を喪失し国民年金に任意加入し、その保険料を負担していた場合などが考えられます。
最後に海外では高くなる可能性がある医療費の控除ですが、医療費控除も結論からすれば帰国後に支払ったもののみが控除の対象となります。これは、所得税法73条(医療費控除)で「居住者が、各年において、自己又は自己と生計を一にする配偶者その他の親族に係る医療費を支払った場合において・・・」と、「居住者」が要件となっているためです。
日々成長。