オリンパス第三者委員会の報告書-監査法人の責任は(その2)?
前回のエントリに続いて、オリンパスの第三者委員会報告書で述べられている監査法人の評価についてですが、その前に同報告書で損失処理スキームに関与していたとされる中塚誠氏が本日付で取締役を辞任したというリリースがオリンパス社のHPに掲載されていました。
山田・森両氏の辞任のタイミングで辞任しなかったのは、損失の繰延に関与していたという意識がなかったのか、あるいは自分の関与が発覚しないと思ってのことなのかは不明ですが、名指しで関与していたとされている以上、辞任せざるを得ないでしょう。
また報道によると、オリンパス経営陣が早ければ2月の臨時株主総会で退任するようです。12月1日に取締役を辞任したウッドフォード氏が社長復帰に意欲を見せているとのことで、今回の一件は評価できますが、第2のストリンガー氏にならないように願いたいところです。
さて、本題に戻りますが、前回はあずさ監査法人についてのみ書いたので、今回は2010年3月期以降同社の監査を行っている新日本監査法人について同報告書の内容を確認することにします。
新日本監査法人の監査に対する評価としては「もっとも、新日本監査法人も、2009年委員会報告書等に接して、配当優先株がFA報酬の一部として付与された株式の一部として付与された株式オプションと等価交換されたものであるとの認識を持つに至ったのであるから、配当優先株の実態に即して、高額なFA報酬をのれんに含めることがだとうであるかどうかという観点から、より慎重な検討及び判断がされるべきであったと考えられる。」という提言がなされているものの、「配当優先株が発行された後に監査人に就任し、その買戻しに係る会計処理の適正性を監査するという職責を負った新日本監査法人にあっては、本件処理スキームの発見という視点から見れば、(中略)監査対応について特に問題視すべき事情は見当たらない」と評価されています。
優先株の買取りに関連して2010年3月期に多額の「のれん」を計上した会社対応について、何故こんな目立つような一括処理を行ったのかが疑問でしたが、同報告書の「新日本監査法人の監査の実態と評価」において、その経緯が述べられており理由がわかりました。
そもそも、「優先株の買戻し」と言われていたので理解が不十分でしたが、この優先株については優先株式の内容を考慮して、発行時(2009年3月期)から「長期借入金」(17,384百万円(09年3月末時点))として計上されていたものでした。
なお、この優先株は配当を「現預金及び内部貸付から生ずる利息から諸費用及び税金相当額(28%)を控除した残額の85%」とする内容で、おおまかにいえば利益の85%について配当を受けられるというものだと考えられます。だとすると、大金を投じて会社を買収した意味がなく、FA報酬として支払ものとしては普通ではありえない内容ではないかと思います。
なお、この優先株については、平成20年11月28日の取締役会決議において、530百万米ドル~590百万米ドルで買い戻す決議がなされていたそうです。なお、この件について、オリンパスから新日本監査法人へは買戻し価格には交渉の余地があるという説明がなされていたとされています。
2010年の初頭に優先株の買戻しが具体化しつつあるため、会社と監査法人で会計処理の協議が開始され、長期借入金に計上されている優先株を簿価で資本に振り替えることができるか、あるいは損益を認識して時価で資本へ振り替えなければならないかが協議されたとされています。
Ernst&Young(新日本監査法人が加盟するグローバルファーム)のIFRIC解釈指針では、上記双方とも選択可能と説明がなされていたが、2012年3月期からは簿価での振替が認められず損益を認識する処理になるという見解が示されていたとされています。
そこで、簿価での振替を希望していた会社は2010年3月期に急いで優先株の買戻しを実行したというのが実態のようです。
一つ付け加えると、上記の処理について、新日本監査法人の審査会(会計処理の妥当性を諮る審査会と推測される)では、損益を認識し負債の時価で資本に振り替えるべきという意見が多数意見であったとされていますが、当時の基準では会社が簿価振替を採用してもそれを否定できないという結論に至ったとされています。
多額の「のれん」が計上された点については、優先株の内容が上記のとおり相当有利な内容なので、買取価格が相当高額になることが想定されており、価格が高額になったことについては特に問題視されなかったようです。
検討の主眼は、全額「のれん」として計上できるのかで、DCF法によるジャイラス社の現在価値と優先株の簿価との差額の範囲内に買戻し価格が収まったため全額を「のれん」として計上することになったとされています。
第三者委員会の報告書で実態がわかりましたが、本日、オリンパス社は2011年3月期末の利益剰余金を約530億円減額し約1170億円に修正すると発表しました。報告書によると、監査はきちんとなされていたと読めますが、約530億円過去の損益が間違っていたということで、これを監査の限界として一般の投資家は納得してくれるのでしょうか・・・
株価は今日の終値で1128円と11月11日に付けた424円から大幅な上昇となっていますが、上記の修正額からすれば上場維持を認めるべきではないように思います。
ゴールドマンサックス証券グループが、一時保有目的で15日時点でオリンパス株の6.67%を取得しましたが、12月7日付で保有割合を3.78%(11月30日現在)まで低下させたという大量保有報告書が提出されていました。
15日の株価が640円、30日の株価が1025円なので、概算で約30億円の利益をあげたと計算されます。前回の大量保有が判明した際に、経営権を握る目的ではないとのことでしたが、今後再び買増しに動くことがあるのか興味があります。
なんだかんだ言っても、上場廃止で株価が下落すれば、買収もありうるのではないかと思います。
日々成長。