「包括利益の表示に関する会計基準」改正の公開草案が公表されました-個別財務諸表への適用は当面見送り
平成24年4月24日にASBJから「包括利益の表示に関する会計基準」の改正案が公表されました。コメントの意見募集期限は平成24年5月25日までとされています。
今回の改正は、主に検討課題となっていた以下の2点に対応するものです。
1.個別財務諸表への適用をどうするか
2.連結財務諸表非作成会社の場合の個別財務諸表に任意適用を認めるか
1.個別財務諸表への適用について
結論からすると、「包括利益の表示に関する会計基準」は個別財務諸表には適用されないことになりました。
現行の基準では、第14項で「本会計基準の個別財務諸表への適用については、本会計基準の公表から 1 年後を目途に判断することとする。」とされていますが、公開草案ではこの規定が削除されるとともに、第16-2項「本会計基準は、当面の間、個別財務諸表には適用しないこととする。」が追加され、個別財務諸表へ同基準の適用がないこととされています。
2.連結財務諸表非作成会社の個別財務諸表への適用について
こちらも結論からすると、連結財務諸表非作成の個別財務諸表について「包括利益の表示に関する会計基準」を任意適用することは不可とされました。
この点については、公開草案第39-2項で以下のように述べられています。
「・・・(中略)また、審議の過程では、財務諸表利用者の情報ニーズ等の観点から、個別財務諸表で任意に包括利益を表示することを認める案や、個別財務諸表において包括利益情報の注記を求める案の検討も行われた。
審議の結果、個別財務諸表への適用に関して市場関係者の意見が大きく分かれている状況や、個別財務諸表の包括利益に係る主な情報は現行の株主資本等変動計算書から入手可能でもあること等を総合的に勘案し、当面の間、本会計基準を個別財務諸表に適用しないこととした(第16-2 項参照)。」
個別財務諸表に任意適用が認められないことされた理由は上記のとおりですが、「包括利益の表示に関する会計基準」の第21項(目的)では、「・・・、財務諸表の理解可能性と比較可能性を高め、また、国際的な会計基準とのコンバージェンスにも資するものと考えられる。」とされています。
にもかかわらず、個別財務諸表しか作成しない会社に任意適用を認めないのは、個別財務諸表しか作成していないような規模の会社は国際的な比較可能性はあまり重要視されないということでしょうか・・・
個人的には、任意適用は認めるべきではないかと考えます。
ZOZOTOWNで有名な(株)スタートトゥデイは平成19年(2007年)12月に東証マザーズに上場していますが、連結財務諸表を作成し始めたのは平成21年(2009年)3月期からとなっています。
(株)スタートトゥデイには、ノルウェーの政府ファンドが投資しています。2008年12月時点、すなわち単体財務諸表しか作成していなかった時点の出資先の一覧によると1.54%の持分を取得していたことが確認できました。
このことから、「包括利益の表示に関する会計基準」が適用されていようがいまいが、投資先としての魅力があれば投資家にはどうでもいいことなのかもしれませんが、連結か個別かに起因する以外の差が生じてくる以上、比較可能性がより損なわれるというのは否めないと思いますので、任意に適用したいという会社にはその道を用意しておいてもらいたいと感じます。
3.計算書の名称の検討
上記の1.および2.に加え、IAS第1号「財務諸表の表示」が改正され、包括利益計算書の名称が「純損益及びその他の包括利益計算書」に変更されたことに対応して名称を変更すべきかが検討されました。
結論としては、名称の変更は行わないこととされています。
この点については、公開草案の第37-2項において「・・・・平成 22 年会計基準においては当期純損益の重要性を意識して当時のIAS 第1 号での名称とは異なる名称を採用したことや現行の名称が実務で定着しつつあること、さらには改訂IAS 第1 号では他の名称を使用することも容認されていることなどから、現行の計算書の名称を維持することとした。」とされています。
日々成長。