上場ベンチャー企業の粉飾・不公正ファイナンス
「事例検証 上場ベンチャー企業の粉飾・不公正ファイナンス」(門脇 徹雄著)という何とも興味深そうな書籍を書店で見かけて購入しました。p>
この本では全部で30のケースが取り上げられており、事件の経緯と粉飾の内容(手口)などが述べられています。私の場合は、監査をされる側の作業がほとんどなので、粉飾に加担しない限りはあまり役立ちそうにありませんが、関与先が変な取引に巻き込まれないようにするという意味では役に立つかもしれません。
例えば、ケース1ではアソシエント・テクノロジー株式会社のケースが取り上げられていました。
アソシエント・テクノロジー株式会社といわれても、正直そんな会社あったかなという感じがしますが、2003年6月に東証マザーズに上場した大分の会社で、2005年1月には上場廃止になったとのことなので、印象に残っていないのも理解できます。
同社の事業内容はJavaをベースにしたシステムの受託開発及び電子会議システムの開発販売でした。
上場廃止の原因となった粉飾の手口については、2004年12月28日調査委員会による調査報告書の要旨として以下のように紹介されていました。
①不適切な取引は、上場を実現し継続することを目的に、上場前の2003年1月中間決算期から上場後の2004年7月決算期までの期間に行われていた。
②当期に計上すべき外注経費を、翌期に売上計上される別のプロジェクトの前渡金勘定で資産計上し、同期の経費を少なくし利益を過大に計上していた。この取引は、同社が受注したとする関連証憑が形式的に存在するものの、形式的にプロジェクトマネージャーを選任したとしたうえ、同社の従業員が全く作業に従事せずに外注先に丸投げするという、いわゆるスルー取引と関連して行われており、外部からは実態がわかり難くなっていた。
③前社長や前副社長は、月次予算の目標利益を達成するために、管理部長に外注費を繰り延べて月次の予算の目標利益を達成するよう指示し、外注費を前渡金として処理、前副社長が証憑類の作成、監査対応の指示を行っていた。
④見積書の証憑書類は、取引先の協力のものと、分割して発行してもらったり、同社が自ら作成した証憑書類に取引先から押印を受けたりして事実と異なる内容で作成され、これら虚偽文書の作成は取引先の協力を得て行われていた。
⑤不適切な決算処理による利益操作額は、スルー取引の売上と外注費を、現金基準により相殺後の金額を営業外収益で処理して算出し、その後は、2003年7月に1億6000万円、2004年7月期で2億8800万円であった。
⑥不適切な決算処理は、前社長が直接指示し、副社長も関与、取引先の協力も得たもので、取締役会への提出資料は粉飾後の報告書のため、粉飾に関与していない取締役や監査役が粉飾を発見することは困難であった。
⑦2003年5月29日付で九州財務局に提出された 有価証券届出書は、粉飾による虚偽記載がされており、証券取引法の罰則行為に該当する。
(出典:「上場ベンチャー企業の粉飾・不正ファイナンス」)
普通に読んでいくと⑤の意味がよくわかりませんが、修正された平成15年7月期の財務諸表に以下のような注記がなされていました。
上記の内容からすると、粉飾が発覚し、正しく処理を修正しようとしたものの実態が把握できない部分があるので、厳密な期間損益計算を行うことはできないものの、関連する費用収益を現金主義で処理した結果が上記で記載されているような金額になったということのようです。
ちなみに訂正前の2003年7月期の純損益は107百万円、2004年7月期の純損益は151百万円で、訂正後はそれぞれ△106百万円、△288百万円となっており、質的に重要な金額の粉飾であったといえます。
この事件の後、ソフトウェアの開発会社での循環取引も問題となることが多く、「ソフトウェア取引の会計処理に関する実務上の取扱い」や「循環取引等不適切な会計処理への監査上の対応等について」などが公表されるなど、対応が図られてきていますが、相次ぐIT不祥事の先駆けがこの事件であったようです。
色々あるもんです。
日々成長。