後発事象ー決算発表直前に発生すると困ります
3月決算会社の第1四半期の決算発表が始まっていますが、明日以降から社数も増えるようです。
来週前半に決算発表を予定している会社の場合、ほぼ作業は修了しているものと思いますが、生じてほしくないのが決算発表直前で後発事象です。
ということで、今回は後発事象について、簡単に確認します。
後発事象とは、決算日後に発生した会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に影響を及ぼす会計事象を意味します。
そして、後発事象は以下の二つに分けることができます。上記の定義よりは、この区分のほうが実務上に与える影響は大きいと思います。
①修正後発事象
発生した事象の実質的な原因が決算日現在において既に発生存在しているため、財務諸表の修正を行う必要がある事象
②開示後発事象
発生した事象が翌事業年度以降の財務諸表に影響を及ぼすため、財務諸表に注記を行う必要がある事象。
つまり、上記の区分によって、財務諸表の数値を変更するする必要があるのか、単に注記すればよいのかが異なり、仮に修正後発事象であれば、通常利益の額も変化するため修正しなければならない箇所が多く、実務作業の負荷は大きいといえます。
具体的に修正後発事象、開示後発事象に該当するものの例については、「後発事象に関する監査上の取扱い」(監査・保証委員会報告第76号)で例示されています。
1.修正後発事象の例示
①決算日後における訴訟事件の解決により、決算日において既に債務が存在したことが明確となった場合には、単に偶発債務として開示するのではなく、既存の引当金の修正又は新たな引当金の計上を行わなければならない。
②決算日後に生じた販売先の倒産により、決算日において既に売掛債権に損失が存在していたことが裏付けられた場合には、貸倒引当金を追加計上しなければならない。
修正後発事象は、新たな事象が発生したことにより、財務諸表を修正しなければ、財務諸表に誤謬が存在するといわれてしまうものとと言えるのではないかと思います。つまり、特定の事象が明らかになったことによって、いままで正しいと思っていたことが否定されたというケースです。
2.開示後発事象の例示
開示後発事象については、相当な数の例示がなされています。
(1)個別財務諸表
1. 会社が営む事業に関する事象
① 重要な事業の譲受
② 重要な事業の譲渡
③ 重要な合併
④ 重要な会社分割
⑤ 現物出資等による重要な部門の分離
⑥ 重要な事業からの撤退
⑦ 重要な事業部門の操業停止
⑧ 重要な資産の譲渡
⑨ 重要な契約の締結又は解除
⑩ 大量の希望退職者の募集
⑪ 主要な取引先の倒産
⑫ 主要な取引先に対する債権放棄
⑬ 重要な設備投資
⑭ 新規事業に係る重要な事象(出資、会社設立、部門設置等)
2. 資本の増減等に関する事象
① 重要な新株の発行(新株予約権等の行使・発行を含む。)
② 重要な資本金又は準備金の減少
③ 重要な株式交換、株式移転
④ 重要な自己株式の取得
⑤ 重要な自己株式の処分(ストック・オプション等を含む。)
⑥ 重要な自己株式の消却
⑦ 重要な株式併合又は株式分割
3. 資金の調達又は返済等に関する事象
① 多額な社債の発行
② 多額な社債の買入償還又は繰上償還(デット・アサンプションを含む。)
③ 借換え又は借入条件の変更による多額な負担の増減
④ 多額な資金の借入
4. 子会社等に関する事象
① 子会社等の援助のための多額な負担の発生
② 重要な子会社等の株式の売却
③ 重要な子会社等の設立
④ 式取得による会社等の重要な買収
⑤ 重要な子会社等の解散・倒産
5. 会社の意思にかかわりなく蒙ることとなった損失に関する事象
① 火災、震災、出水等による重大な損害の発生
② 外国における戦争の勃発等による重大な損害の発生
③ 不祥事等を起因とする信用失墜に伴う重大な損失の発生
6. その他
① 重要な経営改善策又は計画の決定(デット・エクイティ・スワップを含む。)
② 重要な係争事件の発生又は解決
③ 重要な資産の担保提供
④ 投資に係る重要な事象(取得、売却等)
(2)連結財務諸表
① 重要な連結範囲の変更
② セグメント情報に関する重要な変更
③ 重要な未実現損益の実現
上記のとおり、開示後発事象には様々なものが該当する可能性があるわけですが、上記のような項目で、かつ、「重要な」ものが開示の対象となります。
開示後発事象の典型例としては、係争事件(訴訟)の発生あるいは解決がありますが、規模が大きくなればなるほど、何らかの訴訟を抱えている可能性は高くなりますので、網羅的に案件を把握し、かつ「重要な」ものであるか否かを判断する必要があります。
最近は、残業代の未払請求が増加していると言われています。コンプライアンスが重視される(?)上場企業であれば、未払残業が問題になるようなことは(すく)ないはずですが、仮にタイミング悪く労基署に是正勧告を受けたというような場合も、後発事象として開示しなければならないことも考えられます。
一応検索してみたら、1社発見しました。
平成23年2月期の株式会社乃村工藝社の有価証券報告書に以下のような記載がありました。
「当社大阪事業所に対する大阪南労働基準監督署の是正勧告について
平成23年3月17日に、当社大阪事業所に勤務する従業員の未払残業代金について、大阪南労働基準監督署から労働基準法第24条に規定する賃金支払および労働基準法第37条に規定する時間外、深夜および休日の労働における支払の是正勧告および指導を受けました。この勧告および指導に従った是正措置について、平成23年5月9日までに当該労働基準監督署に報告することにしております。
このたびの労働基準監督署からの勧告を真摯に受け止め、指導に則した対応をおこなうとともに、改めて当社一般従業員の勤務実態の調査を進めております。
なお、当該影響額については、現在算定中のため未確定であります。」
相当「重要な」未払残業代だったのでしょう・・・
日々成長