テナント賃料の滞納に伴い発生する遅延損害金が消費税の課税対象?
税務通信3224号の税務の動向に「テナント賃料の滞納に発生する遅延損害金」という記事が掲載されていました。特定の業種を除き、実務上はあまり関係はないように思いますが、消費税の考え方という点で興味深かったので取り上げることにしました。
内容としては、テナント賃料を滞納した場合に、遅延した日数等に応じて支払わなければならない遅延損害金は消費税の課税対象となると考えられるというものです。
遅延損害金が消費税の課税対象??
どうして?という感じがしましたが、理由は「一般的には、賃貸借契約に基づき賃貸期間に応じて徴収されるものであり、契約条件に違反した場合等における”賃料の割増料金”としての性格を有していると考えることができる」ためとされています。
遅延損害金は、利息と同様に一定の利率によって定めれらているものが多く、利息に相当するものとして消費税は非課税になると考えてしまいそうですが、「消費税法別表第一に掲げる消費税が非課税となる利子等は、預貯金や貸付金の利子など金融取引等によるもの」が対象とされています。
この点において、「テナントの賃料の滞納に伴って発生する遅延損害金は、「利子を対価とする貸付金等」に係る利子には該当しないものと考えられる」とされています。
確かに貸付金等の利子とは異なるけれど、損害賠償だからそもそも不課税取引なのでは?と考えてしまいますが、この点についてもテナント賃料の滞納に伴って発生する遅延損害金は一般的には不課税取引となる損害賠償金にはあたらないという見解が示されています。
根拠は、国税庁質疑応答事例「違約入居者から受け取る割増賃貸料」および消費税基本通達5-2-5です。まず、国税庁質疑応答事例「違約入居者から受け取る割増賃貸料」では以下のように述べられています。
【照会要旨】
賃貸事務所の入居者が契約条件に従わない場合等には退去を求め、期限までに退去しない場合には規定の賃貸料の3倍に相当する額の賃貸料を徴収することとしていますが、この規定の賃貸料を超える部分の金額は損害賠償金又は違約金的なものとして、事務所の貸付けの対価には該当しないと考えてよいでしょうか。【回答要旨】
規定の賃貸料の3倍に相当する額の賃貸料は、事務所の賃貸借契約に基づき賃貸期間に応じて徴収されるものであり、契約条件に違反した場合等、一定の要件に該当する場合における割増料金としての性格を有するものと認められます。したがって、その全額が事務所の貸付けの対価に該当することとなります(基通5-2-5)。
では、消費税法上、不課税取引となる損賠賠償金とはどのようなものかですが、これが示されているのが消費税基本通達5-2-5です。この通達では以下のように定められています。
(損害賠償金)
5-2-5 損害賠償金のうち、心身又は資産につき加えられた損害の発生に伴い受けるものは、資産の譲渡等の対価に該当しないが、例えば、次に掲げる損害賠償金のように、その実質が資産の譲渡等の対価に該当すると認められるものは資産の譲渡等の対価に該当することに留意する。
(1) 損害を受けた棚卸資産等が加害者(加害者に代わって損害賠償金を支払う者を含む。以下5-2-5において同じ。)に引き渡される場合で、当該棚卸資産等がそのまま又は軽微な修理を加えることにより使用できるときに当該加害者から当該棚卸資産等を所有する者が収受する損害賠償金
(2) 無体財産権の侵害を受けた場合に加害者から当該無体財産権の権利者が収受する損害賠償金
(3) 不動産等の明渡しの遅滞により加害者から賃貸人が収受する損害賠償金
ポイントは、消費税法上不課税取引となる損害賠償金は、「損害賠償金のうち、心身又は資産につき加えられた損害の発生に伴い受けるもの」に限られるという点です。このように考えるのであれば、確かにテナント賃料の滞納に伴い発生する遅延損害金がこの要件に該当することは少ないように思います。
どのようなケースが該当するのかはよくわかりませんが、例えば不動産の個人オーナーが、テナントに賃料を取り立てに行ったら、取り立てに行く度に、常識の範囲を超えてひどく罵倒され精神的苦痛を負ったというようなケースであれば不課税取引になるのかもしれません。ただ、このような場合であっても賃貸借契約で定められた額を回収しているだけだと、後々それが精神的苦痛を伴ったものであることを立証するのは難しく、結局課税取引と取り扱われてしまうのではないかと思います。
請求名目にかかわらず課税取引となるものがあるという点は、要注意です。
日々成長