「重加算税」部分も遡及修正の対象になるか?ー続編
以前の”「重加算税」部分も遡及修正の対象になるか?”というエントリにコメントを頂きましたので、今回はこの点についてもう一度考えてみます。
上記のエントリでの私の結論は、税務調査等によって本税部分を「誤謬」として処理するのであれば「重加算税分」も「誤謬」として遡及修正することになるのではないかというものです。
この点について、「将来に加算税を科せられることに関する情報を、財務諸表作成時に入手することは不可能と考え」られるので「誤謬」には当たらないと考えられるのではないかというコメントを頂きました。
この点については確かに、最終的な決定を下すのは税務当局ですので、過去の財務諸表作成時点で入手可能な情報はなかったということで「誤謬」には該当しないというような考え方もあり得ると思います。
しかしながら、一方で、意図的に脱税を行っていたような会社の場合、仮に税務調査でそれが発覚したとすれば「重加算税」が課せられる可能性が極めて高いとわかっていたということもあり得ると思います。後の税務調査で、脱税が発覚した場合に予想通り重加算税が課せられたとすると、これは財務諸表作成時に入手可能な情報ではなかったといえるのかが問題となります。
上記のようなケースの場合、個人的にはやはり「誤謬」に該当するのではないかと思います。税務調査で「重加算税」が課せられるようなケースは意図的な隠ぺい等が行われているのが一般的だと考えられますので、やはり「重加算税」は本税分とともに「誤謬」として取り扱われることになるような気がします。
事例を調べてみたとこと、いくつか参考になりそうな事例があったので紹介します。
1.㈱ランシステム(2012年6月期)
監査人は大手監査法人ではありませんが、2012年6月期の有価証券報告書において、税務調査の結果「修正再表示による注記」を記載している事例です。有価証券報告書における記載は以下のようになっています。
【修正再表示に関する注記】
当事業年度に行われた法人税の税務調査の結果、過去の事業年度に係る税務申告書の作成誤りを指摘され、27,286千円の追徴税額が発生する見込みです。前事業年度の財務諸表は、この誤謬を訂正するために修正再表示しております。
前事業年度より前の事業年度に関する修正再表示の結果、修正再表示を行う前と比べて、前事業年度の期首の純資産の額につき、利益剰余金が2,448千円減少しております。
前事業年度に関する修正再表示の結果、修正再表示を行う前と比べて、前事業年度の貸借対照表の未払法人税等は27,286千円増加し、利益剰余金は27,286千円減少しております。また、前事業年度の損益計算書の法人税、住民税及び事業税は24,837千円増加し、当期純利益は24,837千円減少しております。
前事業年度の1株当たり純資産、1株当たり当期純利益は、それぞれ1,454円80銭、1,324円23銭減少しております。
上記時点では「追徴税額が発生する見込み」とのことで、「追徴税額」にどこまで含まれるのかも不明確ですが、この書き方からすると延滞税も含まれているものと推測されます。また、「税務申告書の作成誤り」の内容もどのレベルの誤りなのかはわかりませんが、「誤謬」として修正再表示していることからすると単純なミスであったのではないかと思われます。
2.神鋼商事(株)(2013年3月期第1四半期報告書)
同社の2013年3月期第1四半期報告書の連結PLの税金部分の記載を抜粋すると以下のようになっています。
遡及修正基準が適用後に「過年度法人税等」が生じている会社はちらほら事例がありますが、注記を付けている会社は他に見当たりませんでした。
同社の連結PLの注記では以下のように記載されています。
(四半期連結損益計算書関係)
※ 過年度法人税等
大阪国税局による平成24年1月からの税務調査の結果、平成19年3月に実施した当社の子会社増資につき、当社が額面で引き受けた行為が有利発行に該当し、時価との差額は受贈益として認識すべきとする更正処分を平成24年6月に受け、付帯税を含めた法人税、住民税及び事業税を全額納付いたしました。
当社は、当該取引について税務上適切に処理したと認識しており、国税不服審判所に対して、審査請求を行い、処理の正当性を主張していく所存であります。
上記のとおり、徹底的に税務当局と争う姿勢であり、会社のポジションとしては決して「誤謬」ではないという主張がみてとれます。
最後に、遡及修正基準適用後に「過年度法人税等」が計上されている事例を探していた際に以下のような事例もあったので紹介しておきます。ASTI㈱の2012年3月期の有価証券報告書です。連結PLの税金部分は以下のようになっています。
上記で「過年度法人税等」で計上されている金額は、同社の利益規模からみてかなり重要なインパクトを有しているように思いますが、特にPL注記は付されていません。また、遡及修正されていないため「誤謬」ではないと判断されているということになります。
上記の三事例を考慮すると、
①そもそも「過年度法人税等」に重要性がなければ、「誤謬」がどうか以前に重要性の原則で遡及修正しない
②「過年度法人税等」の金額が重要であっても、税務当局との見解の相違という主張により「誤謬」ではないとして遡及修正しない
③言い訳もできないくらいのミスや脱税による場合は、さすがに「誤謬」と認めて遡及修正する
というところでしょうか。実際に遭遇しないことを祈ります。
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