資産除去債務の簡便法の注記は?
今回は資産除去債務の処理を適用指針第9項に定める敷金を減額する方法(以下「簡便法」とします)で行っている場合に注記はどうなるのかについてです。
「資産除去債務に関する会計基準」の第16項では以下の注記項目が要求されています。
(注記事項)
16. 資産除去債務の会計処理に関連して、重要性が乏しい場合を除き、次の事項を注記する。
(1) 資産除去債務の内容についての簡潔な説明
(2) 支出発生までの見込期間、適用した割引率等の前提条件
(3) 資産除去債務の総額の期中における増減内容
(4) 資産除去債務の見積りを変更したときは、その変更の概要及び影響額
(5) 資産除去債務は発生しているが、その債務を合理的に見積ることができないため、貸借対照表に資産除去債務を計上していない場合には、当該資産除去債務の概要、合理的に見積ることができない旨及びその理由
上記を受けて財規8条の28においても以下の通り、同様の注記が要求されています。
(資産除去債務に関する注記)
第八条の二十八 資産除去債務については、次の各号に掲げる資産除去債務の区分に応じ、当該各号に定める事項を注記しなければならない。ただし、重要性の乏しいものについては、注記を省略することができる。
一 資産除去債務のうち貸借対照表に計上しているもの 次のイからニまでに掲げる事項イ 当該資産除去債務の概要
ロ 当該資産除去債務の金額の算定方法
ハ 当該事業年度における当該資産除去債務の総額の増減
ニ 当該資産除去債務の金額の見積りを変更したときは、その旨、変更の内容及び影響額
二 前号に掲げる資産除去債務以外の資産除去債務 次のイからハまでに掲げる事項
イ 当該資産除去債務の金額を貸借対照表に計上していない旨
ロ 当該資産除去債務の金額を貸借対照表に計上していない理由
ハ 当該資産除去債務の概要
重要性がなければ注記を省略することができますが、重要であっても簡便法を採用することはできます。では、原則法を採用していたならば上記の注記が求められるだけの重要性がある場合に簡便法を採用していた場合の注記はどうすべきかが問題となります。
ここで適用指針9項の定めを確認すると、「当該賃借契約に関連する敷金が資産計上されているときは、当該計上額に関連する部分について、当該資産除去債務の負債計上及びこれに対応する除去費用の資産計上に代えて、当該敷金の回収が最終的に見込めないと認められる金額を合理的に見積り、そのうち当期の負担に属する金額を費用に計上する方法によることができる。」とされています。
また適用指針27項では、「本適用指針では、資産除去債務に係る実務負担を考慮し、賃借契約に関連する敷金が資産に計上されている場合には、・・・」と定められています。
上記から、実務負担を考慮して原則法に代えて簡便法の使用が認められているとすると考えると、注記もあまりがちがちに書く必要はないのではないかと考えられます。また適用指針の設例等から推測すると、借地の上に建物を建設してそれを撤去して返還しなければならないとか、土壌汚染を回復しなければならないといった「重要な」ものを本来想定しており、建物の賃貸借契約に基づく原状回復義務はそれほど重視していないように思います。とはいえ、定義的には資産除去債務に該当するので処理を不要とはいえないというところではないかと思います。
実際の開示例を検索してみると、簡便法を採用している会社の場合、原則法と同様の注記をしているケースと簡潔に記載しているケースの双方が存在しています。
まず、原則法と同様の注記を行っている事例としては、2012年3月期のメガネトップがありました。
当事業年度(自 平成23年4月1日 至 平成24年3月31日)
当社の資産除去債務は、店舗の不動産賃貸借契約に伴う原状回復義務等であり、使用見込期間を取得から34年として算出しておりますが、「資産除去債務に関する会計基準の適用指針」に基づき、同店舗の当該敷金及び保証金の回収が最終的に見込めないと認められる金額を見積り、当期の負担に属する金額を費用計上する方法によって処理しております。
期首時点においての敷金及び保証金の回収が最終的に見込めないと認められる金額は1,123,885千円であり、当事業年度末における金額は、有形固定資産の取得に伴う増加額115,212千円及び資産除去債務の履行による減少額25,800千円を調整した1,213,297千円であります。
次に、簡便な記載を行っている例として2012年3月期の銀座ルノアールがありました。
当事業年度末(平成24年3月31日)
当社は、店舗の不動産賃借契約に基づき、店舗の退去時における原状回復に係る債務を資産除去債務として認識しております。
なお、資産除去債務の負債計上に代えて、不動産賃借契約に関連する敷金及び保証金の回収が最終的に見込めないと認められる金額を合理的に見積もり、そのうち当事業年度の負担に属する金額を費用に計上する方法によっております。
この見積もりにあたり、使用見込期間は入居から平均撤退年数等を採用しております。
なお、銀座ルノアールについては、以下の前期記載内容と比較すると記載内容が少し変更されています。
前事業年度末(平成23年3月31日)
当社は、店舗の不動産賃借契約に基づき、店舗の退去時における原状回復に係る債務を資産除去債務として認識しております。
なお、資産除去債務の負債計上に代えて、不動産賃借契約に関連する敷金及び保証金の回収が最終的に見込めないと認められる金額を合理的に見積もり、そのうち当事業年度の負担に属する金額を費用に計上する方法によっております。
この見積もりにあたり、使用見込期間は入居から平均撤退年数等を採用しております。
当事業年度において、敷金及び保証金の回収が最終的に見込めないと認められる金額は、164,509千円であります。
また、当事業年度における敷金及び保証金の回収が最終的に見込めないと認められる金額の増減について、重要なものはありません。
銀座ルノアールの事例では、2011年3月期には記載されていた敷金のうち回収不能と見込まれる金額と増減の記載が2012年3月期では削除されています。回収不能と見込まれる金額は2012年3月期も大きく変動していないと推測されるので、意図的に記載を削除したものと推測されます。
最後に、重要性がないことを明確に記載して金額の注記を行っていない事例としては2012年3月期の丸誠の事例がありました。
(資産除去債務関係)
当社は、本社事務所等の不動産賃貸借契約に基づく退去時における原状回復義務を資産除去債務として認識しておりますが、当該債務の総額に重要性が乏しいため、記載を省略しております。
なお、当事業年度末における資産除去債務は、負債計上に代えて、不動産賃貸借契約に関連する敷金の回収が最終的に見込めないと認められる金額を合理的に見積り、当事業年度の負担に属する金額を費用に計上する方法によっております。
賃借しているオフィスの原状回復費くらいしか資産除去債務の対象が存在しないような場合は、最後のような注記が無難ではないかと思います。
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