学習塾の泥仕合・・・進学会VS栄光ホールディングス(2012年1月30日プレスリリースより)
第3四半期の決算発表が多くなってきたので、1月30日の適時開示情報を見ていたら株式会社進学会の”栄光ホールディング(株)の平成24年12月12日日付、「第三者員会調査結果に関するお知らせ」について”というリリースが目に留まりました。
中身を確認してみると、「会話内容の「隠し撮り」を組織的の行い」とか「社長(当時)との密談の内容が前出のレコーダーに入っており」とかなんだか面白そうなことが書いてありました。このリリースから遡って、把握した事の経緯を以下でまとめておきます。
1.関連する会社
この1件では以下の3社(グループ)が関与する会社として登場します。
①株式会社進学会(東証1部上場会社)
②栄光ホールディングス株式会社(東証2部上場会社)
③株式会社増進会出版(非上場)
株式会社進学会は、東大進学会とか京大進学会などの学習塾運営を主に行っている北海道の会社です。名前位しか知りませんでしたが、なんと東証1部に上場している会社です。(平成24年3月期の連結売上は69億円です。)
栄光ホールディングス株式会社は、2011年10月に持株会社として設立されたばかりの会社で、それまでは株式会社栄光として上場していた埼玉の東証2部上場会社です。このグループは栄光ゼミナールやシェーン英会話などの運営を手掛けている会社です。
最後の株式会社増進会出版は、この名前ではピンとこないかもしれませんが、Z会の運営母体です。本社は静岡で、上場はしていません。
2.三社の関係
では、3社がどのような関係にあるかですが、株式会社進学会(以下「進学会」)と株式会社増進会出版(以下「増進会」)が、栄光ホールディングス株式会社(以下「栄光HD」)のその他の関係会社であるという関係にあります。つまり、進学会と増進会は栄光HDの大株主だということです。関係を図示すると以下のようになります。
3.過去の経緯
今回の1件に関連しそうな過去の経緯をまとめると以下のようになっています。
・2009年12月29日 株式会社栄光が増進会との業務資本提携を発表。増進会は栄光の15.9%の株式を第三者割当による自己株式の処分により取得する(実際に取得した日は不明)。
・2010年10月15日 栄光は増進会とのさらなる関係強化を目的として、業務資本提携に関する契約を締結し、第三者割当増資を実施を発表。この第三者割当増資により増進会の持株比率は27.52%に上昇し、筆頭株主となる(第三者割当の完了は11月15日に発表)。
・2010年10月12日 栄光が進学会との業務提携を発表
・2011年3月18日 栄光が進学会との資本業務提携契約締結を発表。また、同日、「株式会社さなる」が保有していた株式(正確には栄光の株式を保有する有限会社信和管財の株式)を進学会に譲渡する予定である旨が発表される。
・2011年6月2日 「株式会社さなる」から進学会が株式を取得したことにより、進学会が持株割合29.9%で栄光の「その他関係会社」に該当することとなった旨が発表される。
・2011年10月3日 栄光HD設立
・2012年6月6日 栄光HDが進学会との資本業務提携の解消を発表。同日付で、進学会の株主提案による取締役選任議案に対し取締役会は反対の意向を表明
・2012年6月22日 株主提案に反対決議を行った際に監査役から要請があったとして、第三者委員会設置を発表
・2012年11月14日 栄光HDが増進会との資本業務提携を発表。
・2012年12月12日 栄光HDが「第三者調査委員会の調査結果に関するお知らせ」を公表
・2013年1月30日 進学会が「栄光ホールディング(株)の平成24年12月12日日付、「第三者員会調査結果に関するお知らせ」を公表
時系列的にはざっと上記のような流れになっています。栄光と増進会との間で資本業務提携が2回締結されているように見えますが、持株会社設立前の栄光と、持株会社としての栄光HDで契約主体が異なるということではないかと思います(単に期限切れということもありえますが・・・)。
4.進学会と栄光HDの主張
まず、進学会の栄光の株の取得は、「株式会社さなる」から栄光の株式を保有する有限会社信和管財の株式を取得することによって行われています。この取得の経緯について、2012年6月25日の「栄光ホールディングスへの株主提案に関する経緯等について」で「栄光 HD 代表取締役社長(以下「栄光 HD 社長」といいます。)が、大株主であるさなると良好な関係を築けず、既に業務提携の関係にあった当社に助けを求めてきた結果」だったと述べられています。
その上、「当時は、東日本大震災、福島県の原子力発電所の事故が発生したことなどから、当社も一旦は決断していた栄光 HD への出資(株式の取得)を断念せざるを得ない状況にありましたが、契約予定日であった前日に、栄光 HD 社長が札幌市の当社にわざわざ来訪し株式の買取りを懇請したことを受け、多額の出資につき苦渋の再決断をした次第です。」とも述べられています。
なんというか、本当は全く栄光HDの株なんか取得したくなかったけれども仕方がなく取得してやったのに恩を仇で返しやがって!!という感じでしょうか。
恩を仇で返すというのは、上記の経緯からもわかるように、結果的に栄光と増進会が関係を強化し、進学会は蚊帳の外に置かれるような状況になっているという意味です。
栄光HDの平成24年3月期の総会を巡って対立が表面化したわけですが、進学会の主張によれば「栄光ホールディングス株式会社(以下「栄光 HD」といいます。)は、突如として、当社と株式会社増進会出版社(以下「増進会」といいます。)が共同して行なった株主提案に係る議案のうち当社より派遣する取締役候補者の選任に反対し、社外取締役の追加選任、現在の1名の取締役の辞任など、当社と増進会が栄光 HD と協議し、まとまっていた事項について全て反故にする内容の開示」を行ったとされています。
これに対して、栄光HDは、2012年6月6日のリリースの中で「当社と進学会との間には、その企業理念、経営方針、上場会社としてのガバナンス体制の在り方、遵法意識等、企業経営の根幹に関わる部分において、埋めがたい相違点があることが明らか」になったことをその理由として挙げています。
企業理念や経営方針の相違はわかりますが、「上場会社としてのガバナンス体制の在り方、遵法意識等」に埋めがたい相違があるというのは、暗に進学会の体質に問題があると言っているに等しい内容です。
同リリースの名で具体例として以下のような事項が挙げられています。
・本年4月3日に、進学会において、著作権侵害問題が発覚したこと
・進学会から、当社に対して、利益供与の要求とも受け取れる言動が複数回にわたってなされたこと
・進学会の役員から、当社役職員に対して、度々強圧的な言動や要求等がなされたこと
・5月 15 日付プレスリリースが開示された後、かかる言動や要求等がより一層エスカレートしたこと
・5月 15 日付プレスリリースが開示された後、進学会から、株主提案に記載された株主提案の目的を著しく逸脱した要請がなされるに至ったこと
ちなみに、このリリースの最後には、増進会とは仲良くやっていけそうですという旨の内容が記載されています。
これに対して進学会は2012年6月25日のリリースの中で、「当社がさなるから栄光 HD の株式を取得した後に、三社による協力・連携の関係にひびを入れかねない事情(あるいはもともと栄光 HD 社長の言葉を信頼してよかったのか疑問を生じさせる事情)や栄光 HD のガバナンスの有効性に疑問を呈さざるを得ない事情が発覚しました」と、問題があるのはむしろ栄光HD側だと主張しています。
具体的には、栄光HDは増進会の代表取締役社長の紹介で同会長が個人的に3500万円融資を行っていた簿価純資産8000万円程度のM&A案件を6億円で取得しようとしていた(結果的に進学会の提案に沿った形で約2000万円で20%の資本提携になった)、既に相当高額な報酬をえているにもかかわらず、ほぼ毎月面談するごとに、栄光HDの役員報酬の値上げに同意するよう要求してきたというようなことが述べられています。そして、「株主総会の開催に関して決議するはずであった 5 月 29 日開催予定の取締役会を中止し、当社に何らの連絡もないままに、6 月 6 日に一方的に当社の株主提案に反対することや株主提案後に協議して決まっていた追加の社外取締役選任を行わないことなどを内容とするプレスリリースを開示」したとしています。
相当ドロドロしてますね。
で、結局、進学会側の提案した取締役の選任はどうなったかですが、残念ながら2名とも否決されました。上場会社の30%程度の株を保有していて、負けるのか?と思いましたが、ほぼ同じレベルの持株を増進会が保有していることと従業員持ち株会が5%程度の株を保有しているので、結果的に負けてしまったということだと思います。
次に、第三者員会の調査結果はどうだったのかをみてみると、概ね以下のよな内容となっています。
・著作権侵害については、現物のテキストを確認できていなが、著作権侵害があったと合理的に推認できる。
・会社法が禁止する利益供与の要求と認定できる言動があったとまでは認めることはできないが、外形的には利益供与の要求とも受け取れる言動を行ったと認めることができる。
・進学会の役員らの栄光HDの役員及び従業員に対する言動や要求等は、その要求内容、態度等に照らし、強圧的なものであったと認めることができる。
・進学会側から2名の取締役が選任される方向性を打ち出した後の進学会の役員らによる言動や要求等は、著しく栄光HDの経営権に干渉するものであって、未だ新経営体制を確立しない段階にあったこと等を考慮すると、株主提案の目的を著しく逸脱する程度にエスカレートしたものと認めることができる。
上記からすると、進学会に問題があったという感じですが、その程度はイマイチ曖昧です。たとえば、「著作権侵害」は問題ですが、それがどの程度(頻度)のものであるのかによってイメージは全くことなります。また、利益供与の要求というのは栄光HDのリリースによれば株価の下落の穴埋めをするように迫られたというようなものですが、具体的にどのような要求があったのかは述べられていません。株価が上がるようにがんばれという範疇のものであれば株主としては当然の要求だと思うので、どうせここまで書くのであれば、具体的に何をどうやって穴埋めを迫られたのかまで書いてもらいたかったところです。
長くなりましたが、これでようやく私が最初に目にした「栄光ホールディング(株)の平成24年12月12日日付、「第三者員会調査結果に関するお知らせ」について」に戻ります。
このリリースの中で進学会は、第三者員会の「第三者性」が保たれていたのか甚だ疑問だという旨を述べています。つまり、結果ありきの調査ではなかったのか?と述べ、その上で第三者委員会の調査結果に対し、以下のような反論を行っています。
・「含み損の解消を求める言動を繰り返していた」は事実無根。
・「IC レコーダーを差し出させて」:信頼関係が第一であるはずの業務提携の中で、近藤社長をはじめとする栄光 HD 役員全員が、会社支給の IC レコーダーを用いて当社ならびに増進会出版社との会話内容の「隠し撮り」を組織的に行い続けていたことが判明したため、本人の了承を得てお預かりしたもの
・「本社ビルの売買契約書等の社内機密資料を提出させたこと」:当社が栄光 HD に出資する際に、近藤社長が誓約した事項に関わる重大な信義則違反が判明したため、提出いただいたもの・・・これは進学会が株式を取得する前に資産の大きな変動はない旨を確認していたにもかかわらず、株取得直後に本社ビルを取得していた事実が発覚したためとされています(6月25日リリース)
・「増進会の社長(当時)と今後会わないことを内容とする誓約書」:近藤社長と増進会出版社(以下 Z 会)社長(当時)との密談の内容が前出のレコーダーに入っており、その中で当社と Z 会の間を裂くための相談が行われていたことによる
・「コンサルタントとの顧問契約について解約」:栄光 HD が外部と行っている顧問契約は、件数・金額も数億円に上る膨大なもので、学習塾事業として必要とは思えない内容かつ不適切と思われる取引関係が散見されたため・・・どのようなものか知りたいですよね。
と、概ねこのような反論になっています。そして、「そもそも,栄光 HD 側が当社に対して業務提携契約の解消を告げてきたのは、当社が株主価値を毀損するのではないかという見地から指摘した数々の事項が、近藤社長をはじめとする経営陣にとって隠蔽していた事実が明るみとなる不都合ものであったから」と主張しています。
こんな感じの泥仕合なのですが、果たして嘘をついているのはどちらでしょう。現在のところ訴訟になっているわけではないので、事実が何であのかは闇の中ということかもしれませんが、ここまでやったらとことんやって白黒つけてもらいたいと、個人的には思ってしまします。
日々成長