賞与引当金の支給実績差額は引当金明細表の「当期減少額(その他)」に記載すべき?
今回は、有報の引当金明細表や計算書類の附属明細書に記載される「賞与引当金」の記載方法についてです。
賞与引当金の記載については、以下のような記載が一般的です。
つまり、前期末残高=当期減少額(目的使用)、当期増加額=期末残高という関係が成立している状況です。
ところで、財規の引当金明細表の記載上の注意によると『「当期減少額」のうち「その他」の欄には、目的使用以外の理由による減少額を記載し、減少の理由を注記すること』とされています。
計算書類の附属明細書についても、会計士協会のひな形や経団連のひな形に同様の記載があります。
ここで、夏の賞与の支給対象期間が10月~3月で3月末の引当金残高が600、実際の支給額が580であった場合に、差額の20の取扱いをどうするのかが問題となります。
引当金明細表の記載上の注意を素直に読むと差額の20は「当期減少額(その他)」に表示することになりそうですが、「当期減少額(その他)」に金額が入っているケースはあまりないように思います。
そこで会計士協会の「有報サーチ」で2012年3月31日決算の会社で引当金明細表に「賞与引当金」が含まれている事例を検索してみると、非上場会社も含め2,253件がヒットしました。
次に、「当期減少額(その他)」に金額が含まれているとすればあるであろう脚注を想定し、引当金明細表を「賞与引当金の「当期減少額(その他)」」で検索してみると62件がヒットし、「役員賞与引当金の「当期減少額(その他)」」を除くとヒット件数は45件となりました。したがって、当初の母集団に対して約2%の会社でしか『賞与引当金の「当期減少額(その他)」』が計上されていないというのが現状です。
実際の開示例を確認しておくと、以下のようになっています。
一般的には予算以上の金額で賞与を支給することは考えにくいため、賞与引当金の金額よりも実際の支給額が下回るのが普通ではないかと考えられるところ、上記のとおり、「当期減少額(その他)」に金額が入っているのは、かなりの少数派です。
これは何故か?一つに考えられるのは、夏の賞与支給対象期間が1月~6月であるため支給総額が3月末の引当金計上額を下回ることがないという可能性です。しかしながら、実感として支給対象期間が10月~3月という会社もある程度存在するので、これが理由であれば「当期減少額(その他)」に金額が入っている会社がもう少しあってもよいかなという気がします。
もう一つの可能性は、夏の賞与で余った分は冬の賞与で使用されるため目的外での使用はないという考え方です。この考え方については、夏の賞与のために計上した賞与引当金を冬の賞与で使用したのだから目的外取崩しだという反論も考えられます。
そこで、引当金明細表等において「当期減少額(その他)」の開示が求められている理由は何かを考えてみる必要があります。この理由について、明確に記載されているものは発見できませんでしたので推測するしかありませんが、一つには、見積り項目であるため実績の乖離を開示する必要性が高いという考え方がありえます。
しかしながら、見積りと実績の乖離を開示する必要性が高いということであれば、目的外の取崩しに限らず、支給実績が見積もりを上回った場合にも何らかの開示が必要となると考えられますし、支給対象期間が1月~6月のような会社であっても3月末に想定していた支給見込み額と実績支給額との差額が何らかの方法で開示されるべきだと考えられます。
このように考えると、見積額と実績額の乖離を開示するということが目的ではないのではないかと考えられます。
もう一つの可能性は、利益操作的な情報の開示です。つまり、賞与引当金として計上していた金額が、結果的に他の費用項目を補う形になった場合に、そのようなイレギュラーな項目を開示するというものです。
たとえば、3月末時点では賞与引当金が計上されていたが、リコール等の大問題が勃発し、賞与の支給がほとんどされなかったというようなケースです。この場合、取り崩された賞与引当金(前期の費用)は、当期利益という観点ではリコール費用等の穴埋めに使用されたことになります。このような場合に「当期減少額(その他)」として開示するのではないかという解釈です。
個人的には、後者の解釈が妥当なのではないかと思いますので、賞与引当金についていえば、それが直接の計上対象である夏の賞与に支給されなかったとしても、冬の賞与に使用される限りにおいては目的使用として取り扱ってよいのではないかと思います。