役員退職慰労金の支給の税務
今回は役員退職慰労金の税務処理についてです。
1.基本的な考え方
役員退職慰労金の損金算入時期については、法人税法基本通達9-2-28で以下のように述べられています。
(役員に対する退職給与の損金算入の時期)
9-2-28 退職した役員に対する退職給与の額の損金算入の時期は、株主総会の決議等によりその額が具体的に確定した日の属する事業年度とする。ただし、法人がその退職給与の額を支払った日の属する事業年度においてその支払った額につき損金経理をした場合には、これを認める。
つまり、原則としては債務確定主義により、役員の退職という事実に伴う債務が確定する役員退職慰労金の支給を決議した株主総会等の決議、あるいはその委任を受けた取締役会の決議により、その支給額が確定した事業年度において損金算入することとされています。
この通達は、会社法の制定および役員賞与に関する会計基準の導入を受けた、平成18年度の税制改正を受けて上記のように改正された経緯があります。改正前は、損金算入時期の要件は「株主総会の決議によりその決議によりその額が具体的に確定した日の属する事業年度で損金経理した場合」とされていました。
平成18年前後で取扱いが異なるのは、以下の仕訳を行った時に税務上も損金算入が認められるか否かです。
借)役員退職慰労引当金 XXX 貸)現金預金 XXX
改正前は損金経理が要件となっていたため上記の仕訳では損金算入の要件を満たさないことになりますが、改正後(現在)は上記の仕訳でも損金算入が認められることになっています。
現行の通達では、支給決議事業年度において損金経理を行わず、その支払った事業年度において損金経理した場合には損金算入が認められていますが、損金経理が要件とされていますので、引当金を充当する仕訳だけでは損金経理の要件を満たしたことにならないので注意が必要です。
正直あまり意味があるとは思いませんが、そうはいっても税務上損金算入するための要件ですので、引当金を計上していた場合には以下のような仕訳が必要となります。
借)役員退職慰労引当金XX貸)役員退職慰労引当金戻入益 XX
役員退職給与 XX 現金預金 XX
2.役員退職慰労金制度を廃止した場合の税務
役員退職慰労引当金制度を廃止することとした場合で、制度廃止時までの分については従来の内規等に従って支給することとした場合、以下の3つのケースが考えられます。
- 役員退職慰労金制度の廃止時に株主総会で支給決議を行うが、実際の支給は役員が退任した時とするケース
- 役員退職慰労金制度の廃止時に株主総会で支給決議は行わず、役員が退任時に総会で支給決議を行い支給するケース
- 役員退職慰労金制度の廃止時に株主総会で支給決議を行い、在任期間中であっても支給するケース
上記1のケースでは、いつ損金算入が認めれるのかが問題となります。つまり、株主総会で支給決議をおこなった時点で債務が確定しているので損金算入が認めれるのか、あるいは実際に支給された時点で損金算入が認められるのか、また仮に支給時点で損金算入が認められるのであれば、損金経理が要求されるのかという点が問題となります。
この点について、「役員報酬をめぐる法務・会計・税務(田辺総合法律事務所・清新監査法人・清新税理士法人著)」では以下のように述べられています。
支給決議時に支給額は確定するが、当該役員が退任するまでは退職慰労金の支給は行わず、求償権も発生しないことから債権債務はまだ生じていないと考えられる。そのため、税務上では、役員退職慰労金の額が債務として確定するのは実際に退職慰労金を支給する状態となる役員の退任時と考えられ、その支払日の属する事業年度において損金経理を行うことなく、損金算入が可能となるものと考えられる。具体的には、会計上、役員退職慰労引当金繰入時に費用処理した額は、税務上は申告時自己否認し加算調整を行っているので、損金算入事業年度には、別表4で否認額について減算することになると考えられる。
要は支給時に引当金を取り崩し、別表4では引当金計上時に加算した額を減算すればよいということになります。
上記2のケースでは、役員退職慰労金の支給決議時に債務が確定し、この場合は損金経理の要件もないので、会計処理にかかわらず支給決議時に損金算入が認められます。したがって、会計上は引当金を取り崩して支給すればよいということになります。
上記3のケースでは、退職慰労金の支給が行われるものの、退職の事実に基づくものでないため、役員賞与として取り扱われ損金算入が認められないことになります。したがって、現実的はこの選択肢がとられる可能性は低いと考えられます。
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