振当処理を採用している場合の包括利益計算書
振当処理を採用している場合の包括利益計算書における取扱いについては、包括利益会計基準31項(2)のなお書において以下のように定められています。
(2) 繰延ヘッジ損益に関する組替調整額は、ヘッジ対象に係る損益が認識されたこと等に伴って当期純利益に含められた金額による。また、ヘッジ対象とされた予定取引で購入した資産の取得価額に加減された金額は、組替調整額に準じて開示することが適当と考えられる([設例4]参照)。なお、為替予約の振当処理は、実務に対する配慮から認められてきた特例的な処理であることを勘案し、組替調整額及びこれに準じた開示は必要ないと考えられる。
振当処理を採用している場合に繰延ヘッジ損益がでてくるのは予定取引分についてですが、上記からすると、この繰延ヘッジ損益に対して予定取引実行時において「資産の取得原価調整額」等の把握は不要ということになります。
実際の開示例で確認してみると、以下のような事例がありました。
1.ナガイレーベン(2013年8月期)
まず、同社のヘッジ会計の会計方針は以下のように記載されています。
(4)重要なヘッジ会計の方法
①ヘッジ会計の方法
繰延ヘッジ処理によっております。
なお、為替予約については、振当処理の要件を満たすことから振当処理を採用しております。
②ヘッジ手段とヘッジ対象
ヘッジ手段
為替予約取引
ヘッジ対象
外貨建金銭債務
(外貨建予定取引を含む)
③ヘッジ方針
輸入商品購入予定額を基に、月別外貨支払見込額を限度とし、為替相場の動向を勘案の上、支払見込額に対する予約割合を決定・実行しており、投機を目的とした取引は一切行わない方針であります。
上記から、ヘッジ会計の対象となっているのは外貨建金銭債権債務のみであり、かつ振当処理が採用されていることがわかります。
次に連結包括利益計算書の注記では、以下のように記載されています。
予定取引が実行された場合、通常であれば「資産の取得原価調整額」あるいは「組替調整額」が登場するはずですが、前期も当期も「組替調整額」は「-」となっており前述の基準通り「組替調整額」の集計は行われていません。
2.ファーストリテイリング(2013年8月期)
ファーストリテイリング社のヘッジ会計の方針には以下のように記載されています。
(4)重要なヘッジ会計の方法
①ヘッジ会計の方法
繰延ヘッジ処理の方法によっております。なお、為替予約が付されている外貨建金銭債権債務につきましては、振当処理を行っております。
②ヘッジ手段とヘッジ対象
外貨建取引の為替変動リスクに対しては、為替予約取引により管理しております。
③ヘッジ方針
為替変動リスクをヘッジするために為替予約取引を行っております。同取引の実行及び管理は、取引手続・権限等を定めた社内規程に則って財務チームが行い、その状況について逐次報告しております。
④ヘッジ有効性評価の方法
ヘッジ手段の変動額の累計額とヘッジ対象の変動額の累計額を比較して、有効性の判断を行っております。ただし、ヘッジ手段とヘッジ対象の資産又は負債に関する重要な条件が同一である場合は、ヘッジ有効性評価を省略しております。
同社もヘッジ会計の対象となっているのは外貨建金銭債権債務のみで、かつ振当処理が採用されています。連結包括利益計算書の記載を確認すると以下のようになっています。
この事例でも「当期発生額」のみが記載されており「組替調整額」は存在しないことから、冒頭の基準どおりの処理がなされていることが確認できます。
振当処理が採用されている場合の処理については、基準の文言をなぞってさらりと書いてあるケースが多く、本当にそれでよいのかと考えてしまうこともあるようですが、上記の例からも単純に考えらればよいようです。
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