見積計上した費用は法人税法上加算すべきか(その2)
前回の続きです。
前回述べたように、売上原価については法人税法上も費用収益の対応が重視される一方で、販管費については債務確定基準が重視されています。何をもって債務が確定しているというのかについては、前回紹介した法人税基本通達2-2-12 で以下の三つが要件すべてを満たすときに債務が確定したものとして認めるとされています。
- 当該事業年度終了の日までに当該費用に係る債務が成立していること。
- 当該事業年度終了の日までに当該債務に基づいて具体的な給付をすべき原因となる事実が発生していること。
- 当該事業年度終了の日までにその金額を合理的に算定することができるものであること。
例えば、給料を20日締め月末払いで支給している場合に、21日から月末までの給料については、翌月の給与締日前に退職しても支払われるという点て債務は成立している上、労務の提供も受けているため上記の1および2の要件は問題なく満たすといえます。
問題は3の要件です。個々の従業員別に未払の金額をきちんと算定すれば「金額を合理的に算定できる」という要件は問題なく満たすと考えられます。とはいえ、個々の従業員別に未払の金額をきちんと計算するのは、結構手間がかかります。この点について、「新版 最新法人税法」(鈴木基史 著)によると、そこまで厳密な計算をしなくとも、それが合理的である限りにおいて、全体の支給見込み額を日割りで計算するというような計算も認められる旨が記載されています。
つまり、企業会計上の発生主義、費用収益対応の原則という考え方は、「税法における損金の額の計算についても、基本的にそのまま適合するといってよい」(「法人税法 平成25年度版」(渡辺淑夫著))ということです。とはいえ、「債務確定基準」は「費用計算についてより厳格な立場を表しているということであろう」(同上)と述べられていたり、見積が「合理的である限り」というような点が強調されると、会計上の見積りよりも法人税法上の合理的な見積りの方がハードルが高いように感じられるのも事実です。
例えば、水道光熱費や電話代等の通信費が月末締めでない場合、会計上は前年同期の実績や前月の実績などから見積計上することも許容されるのではないかと思いますが、このように見積もったものも債務が確定していると考えてよいのかの判断に迷います。さらに言えば、本社工場の水道光熱費等で、製造原価に配賦されているようなものと販管費として計上されているような場合には、加算するとしても販管費相当分だけを加算するのだろうかというような疑問も生じます。
ただし、基本通達2-2-12で掲げられている3つ目の要件は「当該事業年度終了の日までにその金額を合理的に算定することができるものであること」であるため、より厳密に計算しようとすれば金額を算定できるものについては、会社の行った見積計上があまりにおかしなものでなければ認めるということを意味しているとも考えられます。
これに関連するものとして、「法人税基本通達の疑問点 五訂版」(渡辺淑夫著)では、「債務が成立し、しかも給付原因が発生しているのに金額が算定できないものがあるか?」という問いに対して、通達の1と2の要件を満たしていれば3の要件も満たしているのが普通のため、「質問のようなケースは一般の取引では考えられません」と述べられています。
この考え方からすると、基本通達の3番目の要件は実はそれほど重要な要件ではないということになり、会計上認められる程度の見積であれば税務上加算しなくてもよいと考えることができそうです。
しかしながら、会計監査人設置会社で会計監査を受けて適法意見の監査証明をもらっているような会社以外は、税務調査の際に見積の妥当性の説明を求められた場合に、会社の行った見積りが会計上妥当なものであることを証明するは手間だと思います。
つまるところ、会計上見積計上した売上原価や販管費を法人税申告上加算するかは、売上に対応する原価であることや合理的な見積りであることを自信をもって主張できるかにかかっているのではないかと考えられます。さらに言えば、税務調査を受けた場合に否認を受けるかもしれないというリスクを回避することを優先するのか、節税を優先するのかという会社のスタンスや顧問税理士の考え方などが影響しているのではないかと考えられます。
では、実際に債務が確定していないとして加算している会社があるのかですが、これは次回以降とします。
日々成長